モンゴルだるま@モンゴル語通訳・よろずコーディネーターエコツーリズム普及仕掛け人兼業遊牧民です。

私が取材リサーチ&コーディネートをさせていただいた番組のご紹介です。

NHKの「シリーズ世界遺産100」という番組はNHKがユネスコと共同事業として継続中の世界遺産のデジタルアーカイブプロジェクトの一環として制作されています。

今年、モンゴルが初めてこのプロジェクトの対象となり、モンゴルにある有形・無形の世界遺産から厳選7テーマで番組取材が行われました。

そのモンゴルシリーズの第4弾が11月19日にNHK総合で放送されます。
NHK総合 11月19日(水)22:45~22:50 「モンゴル書道」

 母音や子音など33文字で構成されるモンゴル文字を書くモンゴル 書道。春を意味する単語を、春を告げる鶴の姿に似せて書くなど絵画のような芸術性が特徴だ。ソ連が使っていたキリル文字を使うことを 決定して以来、モンゴル書道も途絶えてしまったが、社会主義体制の崩壊でモンゴル文字が復活。モンゴル書道が学校などでも盛んに教えられている。
世界遺産ライブラリーに紹介されているビエルゲーについてのNHK世界遺産のウェブサイト記事です。
「シリーズ世界遺産100」『モンゴル書道』

このモンゴル書道で出演していただいたバトバヤルさんとは、なんと私が大学1年生の時に、ある本を介してつながっていました。

大学でモンゴル語を専攻したその年の後半からモンゴルからの客員教授としていらっしゃった方がChoi.ロブサンジャブ先生。モンゴル文学の巨匠・B.リンチェン先生の愛弟子で、強烈な民族愛国者。モンゴル文字への敬愛は半端ない!という方でした。

私はモンゴル語とモンゴル文字をこのモンゴル文字教育の第一人者であるロブサンジャブ先生に教えていただきました。

外国人の私が、縦書きのモンゴル文字が読める、というと、大抵のモンゴル人はびっくりするのですが、「ロブサンジャブ先生に師事してました」というと、皆さん納得したように「なるほど」とうなずく。
それほどモンゴル文字普及に情熱をかけていたことでモンゴル国で知られていた先生です。

ロブサンジャブ先生が作ったモンゴル文字の書き方本やモンゴル文字のテキストの手書き原稿を作成したのがバトバヤルさん。

同じく東京外国語大学のモンゴル語学科を卒業し、当時、印刷会社の社長さんをしていたOBの大先輩のご厚意で、モンゴル文字の転写辞書が出版される、となり、「はじめに」の言葉や表紙のデザインなどの清書・デザインをしたのもバトバヤルさん。

穏やかで見かけだ好々爺な感じで気づかなかったんだけど・・・。
バトバヤルさんの書く文字を見て思い出しました。
私は、この人の字を何度も何度も真似して書いていた。
何日も何か月も、1年間ずーっと数冊の薄いテキストを先生から頂いて、それを真似して書いていた。
モンゴルの風俗習慣について、旧正月のしきたりについてなど、私が興味深々だった、民俗学的なテーマの美しいモンゴル文字で書かれたわかりやすい文章。
それが私のモンゴル研究の第一歩だったのです。

繊細で緻密なモンゴル文字の書画作品と共にバトバヤル先生は、モンゴル俳句もお好きです。
私の友人でもある日本人女性が翻訳をしたモンゴル俳句+翻訳の原稿はすでに出版先を探すという段階とのこと。

最近のウランバートルではモンゴル文字がかっこいい!「Cool Mongol」ってことで、Tシャツのデザインに使われたり、看板に使われたりしています。

現代モンゴル語の会話体とモンゴル文字の綴りはかなりずれているものもありますが、きちんと覚えてしまえば、文法的には、キリル文字よりもむしろシンプルなんじゃないかなぁと思うこともあります。

なっかなかキリル文字を手放してモンゴル文字一本化に踏み切りづらいのは、現在の政治家やビジネスマン・官僚のエリートの多くがロシアや欧米・日本や韓国などの留学組で、モンゴル文字に対しての免疫がないからだと思います。

子供たちは学校でモンゴル文字の授業を教わってくるけれど、親が宿題を見てあげられないというジレンマなどなど。

大人の抵抗感が邪魔をしています。

モンゴル文字の美しさがこの番組で味わっていただけたらいいな、と思います。

ちなみにバトバヤルさんはホームページで作品集も公開中。
モンゴルにいらしていただければ、いろんなロゴデザインなども注文できますよ。

「バトバヤルさんのウェブサイトです」(別ウィンドウで開きます)


実は世界遺産の取材はそう簡単ではありませんでした。

ディレクターさんの要望がモンゴルの現実とかけ離れた「ファンタジー」のようで、現地の人々すら困惑することもあり、コーディネーターとして間に入った私は、何度も「もうこの土地を訪れることはできないのではないか」と落ち込み、文字通り身体をふるわせて泣いたこともありました。疲れ果て、ストレスがピークに達して、耳が聞こえなくなり、まったくの無音の世界の中に放り込まれ、「通訳なのに耳が聞こえなくなってしまったら、これから私はどうすればいいんだろう」と恐怖に震えて、途方に暮れたこともありました。

それでも、こういう思いがけない出会いや再会があり、素敵なご縁を結ぶことができることや、番組という形で、皆さまにお届けできる、という達成感が、取材コーディネーターの仕事を続ける原動力となるのです。

おかげさまで、今はなんとか聴覚も復活してきました。

5分間という短い時間でモンゴル文字のドラマティックな歴史やモンゴル書道にかけるバトバヤルさんの情熱や愛情が伝えきれるのかどうかわかりません。

でも、私は、バトバヤルさんに取材・リサーチをさせていただいたおかげで、大学時代のモンゴル研究への情熱、ロブサンジャブ先生のモンゴル民族への深い愛情や激しいほどの愛国心に共鳴してた頃のことを思い出させていただきました。

初心に帰る。そんな貴重な出会いがあった番組です。



モンゴル書道「春」


バトバヤルさんの作品「春」1990年代(モンゴル書道を始めたばかりの初期の作品)
モンゴル人にとって、アネハヅルがモンゴルに舞い戻ってくると「春」を感じるのです。

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