~乳製品の話(その2)~
ウルムをとった後の牛乳は、この家ではポリタンク(写真)に移される。
このタンクの中身は発酵乳で、追加しては撹拌し、発酵させているようだ。
見てもわからないので、訊いてみた。
「お母さん、これヨーグルト?」
「ちがう。アィラグだ」
モンゴル語でアィラグと言えば、普通は馬乳酒のことなんだけど、これは牛乳だよなあ。この地方ではヨーグルトをそう言うのかなと、このときは独り勝手に納得した。
牛乳をタンクに移したあとの鍋には、牛乳の「おこげ」がびっしりだ。
ここで、お母さんから指令が下る。
「おい、鍋を洗え。ホサムを取るのを忘れるな」
ホサムというのが、この「おこげ」のことである。
2008年の旅でゲル滞在したときにも、このおこげ取り&鍋洗いをしたことがあったので、これはすぐわかった。
はーい。と答えて、お玉でホサムをこそぎ落としてはお皿に乗せていく。
「ほー、ユミはホサムわかってんのか」
ソドノムが驚いている。
「へっへー」と自慢気に笑ってみせた。いい年して子どもじみてるけど。
ホサムは直接つまむこともあるし、お茶に入れて食べたりもする。犬のエサにしたりもする。ちょっと香ばしくなった膜の味。これも美味しい。おこげも無駄なく。おみそれします。
そしてようやく鍋を洗えるようになるのだ。
「まだ、やってんのかー」とか言われながら、もたもた洗っていると、鍋底が煤だらけなのをすっかり忘れていて、服が真っ黒になっていたりするのだ。
自慢気に笑っときながら、すぐに笑われる立場に逆戻り。
さて、タンクの中のアィラグはこの後どうなるのか。
飲むのか?食うのか?これはヨーグルトではなくて酒なのか?
(あるがまま舎通信2014年10月号掲載)
