明日から一時帰国するモンゴルだるまです。
完全なプライベート一時帰国休暇は、2年以上ぶりでかなり嬉しいっす。
1カ月弱を有意義に今後の躍進につなげたいと思っております。

で、そういうあわただしい中、今日、馬を買いに行きました。

去年の今頃、羊とヤギを260頭余り購入して、トゥブアイマグのバヤンチャンドマニソムというところ(ウランバートルから北西約60km)から、トゥブアイマグのセルゲレンソムとエルデネソムの境界にあるホールト峠(ウランバートルから南東70km)までの移動、総移動距離は約200km余りのうち、100kmあまりを歩いて家畜を移動させるところから始まった兼業遊牧民生活が、ちょうど1年でさらにパワーアップすることになったのでした。

夏には、パートナーのガナー君が実家の家族たちにやいのやいのと言われて、「もう家畜は全部売り払う」だの「もうお前と一緒に働くのは辞めた」だのと勝手なことを言い出して、何度も家畜維持の存続が危ぶまれる事態になってました。

私が何日か時間がとれるから、家畜のところに行きたい、といっても「疲れている」とか「めんどくさい」とか逆ギレされ、殴られたりすることもあって、全然、夏に家畜の世話ができませんでした。
冬営地の家畜囲いの整備も、羊の毛刈りも予防接種も寄生虫駆除のための水浴も、ちゃんとされているのかどうかわかりませんでした。不安と不信感と一杯でした。

秋になって、ようやく委託遊牧民のところに行くことができて、話し合ったところ、彼らはやる気満々。草原は旱魃気味でしたが、幸い、水場が近くにあるおかげで、なんとか順調に太っているとのこと。

ただ、「もう年なので歩いて羊・ヤギを放牧するというのは体力的に無理。自分のところの馬1頭だけではとても面倒見切れないので、放牧用の馬が欲しい」との条件付きでした。

で、私も他人任せだけの越冬はもう駄目だ、と思ってはいたものの、歩いて雪深い平原を放牧するというのは、かなりサバイバル気分になる大変な作業であると身にしみていたので、馬が欲しいなぁって思っていたところだったので、同意しました。

ガナー君は、「ウランバートルの近くは馬泥棒が多い」としり込みしていましたが、私はちゃんと自分が遊牧に取り組めないまま1年が過ぎてしまい、なし崩し的にあきらめるなんて絶対嫌でした。

委託牧民のおじさんたちと会ってみて、ガナー君なしでも私は兼業遊牧生活を続ける、と決意しました。

始めた当初は、家畜購入費や維持コストを折半する共同所有だったはずの遊牧業も、現金収入になるものはガナー実家がとり、支出は100%わたしが負担という状況で、自分の心のどこかで納得できないでいました。これなら、別にガナー君とじゃなくてもいい。
委託遊牧民のおじさん、おばさんや地元の若い人たちに協力してもらいながら、教えてもらいながら、私一人で取り組む、というほうが、きっと本気で思いっ切ったチャレンジができる。

でもさ、ぐずぐずしてるうちに、もう翌日は飛行機乗って、一路、Japanへ!って時期が迫っちまった!
まだ馬の姿すら見ていません。ほんとに買えるのか?いい馬に出会えるのか?


まず最初にぶちあたった問題が馬をどこで買うか?

私たちの羊ちゃんたちがいるところ周辺は、いわゆるウランバートルの飛び地みたいなナライハ市やテレルジなどが近く、また13世紀村といった観光リゾート地がある地域なので、生きてる家畜の相場が高い。特に馬は、乗用馬として旅行者に賃貸しすることができる現金収入源としても有望なので、高い。

なので、目の付けどころは、ウランバートル市西部にある22トブチョーの先。

22トブチョーとは、ウランバートル西部・北部への出口的な検問があるところです。ウランバートルと地方を往来するためにはこの関所を必ず通ることになるのです。市内に入る時は国道使用税(道路使用料)500トゥグルグを払います。
ここを境にウランバートル市内には、家畜を生きたまま入れることができるのは検疫・保健衛生上の問題で特別許可が必要なので、この料金所より先の「田舎区域」の道路沿いの壁際には、西部、北部方面の地方から生きたまま連れて来られた羊やヤギが群ごとにうずくまっています。

ここで売られている羊たちは、モンゴル的ドナドナ方式「トーバル」というやり方で連れて来られました。数千頭の羊や山羊をその地元の「トーバルチン」とよばれる長距離移動をさせながら家畜を肥え太らせる技術に長けた牧民たちがウランバートルやダルハンなど食肉加工工場があるところまで連れてくるのです。社会主義時代は、国家計画のひとつとして、移動中に家畜の健康診断や予防接種、体重測定などをする専門の獣医さんが循環していたり、国家機密になっていた「トーバルルート」というトーバルのための草原ルートが確保され、野宿するときの家畜囲いポイントや、トーバル用の家畜だけが使える井戸(時間で指定されていたりした)や放牧地などもありました。

今はそこまで徹底されていないので、1-2カ月かけてトーバルチンが独自に連れてきています。

で、羊・ヤギが中心のドナドナ市場で、なぜ馬を買えるのか?というのも不思議ですよね。

私も不思議でした。

でも、説明をきいて「なるほどー」と合点がいきました。

つまり近いところで500km、遠いところでは実に西の果て1,600kmくらい離れたところから、羊・ヤギの群を追ってきたトーバルチンの交通手段であった馬がこの22トブチョーで売られているのです。

トーバルチンたちは、数千頭分の羊・ヤギを食肉加工工場や仲買人たちに売却したお金を預かって再び地元に帰ります。あるいは、ウランバートル市内の市場に行って、注文のあった日用雑貨品やら家具やら食料やらウランバートルで買った方が安いものや、地方では手に入らないものを購入します。

最近は銀行送金という手もありますが、一般的にそういう事務手続きは苦手な遊牧民たちは、懐に大金抱えて帰郷することになる。

となると、家畜を連れずに馬でのこのこ歩いていたら、当然、道中の人々に「あのトーバルチン、家畜を売り払って帰る途中だ」と狙われちゃうわけです。世知辛い世の中ですからね、寝首をかかれないとも限りません。

だから、長い旅の伴侶であった馬も売り払い、帰りはお車(トラックだったり乗合バスだったりする)で凱旋帰郷するのです。

ウランバートル周辺の遊牧民から馬を買うと、まともな馬は、450,000トゥグルグ以下での入手は困難です。

地方でも300,000トゥグルグ前後なんだそうです。

今年の夏2カ月ほどモンゴルに滞在し、馬旅チャレンジをした中山寛樹さんに帰国直前にお会いしてうかがった話だと、アルハンガイアイマグで100ドルだったか150ドルだったかで購入したとか。
でも10日間ほどで馬がヘタリ、彼の当初の単独馬旅計画は頓挫しちゃったのでした。

馬を買って旅をする外国人って日本人だけでなく欧米人バックパッカーなど私が知ってるだけでもこの15年ほど、毎年誰かしらがチャレンジしています。
まぁ200ドルくらい出せば、それなりに一夏の旅の友としては素晴らしいパートナーになり、後に150ドルくらいで売れればかなりコスト的にも節約旅ができますね。

でも私が欲しいのは、一回の旅で売却されちゃうようなテンポラリーな馬ではなく、これから迎えることになる厳しい冬から春を生き抜いて、私の家畜をしっかり守ってくれるたくましい馬なのです。

最初は1頭って話でした。私は2頭いたほうがいいな、自分でも週末乗りに行きたいなと思っていたのですが、例によって「ネガティブ・ガナー」が泥棒に盗まれるとか言っててですね、、、じゃ、一頭かぁ、って思ってたのでした。

でも、トーバルチン達がたむろしているところを車窓から眺めていたところ、私の目が吸い寄せられるように止まってしまいました。

その先には、鹿毛の馬が2頭繋がれていました。

でも、ガナー君は、「すでに電話で話をしたカワラ毛の馬がいるんだから」と取り合ってくれません。

私には、あの馬たちこそ、私が買うべき馬なのになぁって思えてなりませんでした。

ところが、ガナー君が電話で話をつけたはずのおっさんの馬が、いざ、現地に行ってみると見当たりません。
じゃあ、これは?と見せられた馬はやせ細り、あばら骨や腰骨が浮き出ています。
目もよどんだ感じで、全然愛情が湧いてきません。

その場で決定するのもなんだから、、、とその場を離れてから、ガナー君にもう一度お願いしました。

せめて、近くであの馬を見てほしい。
あの馬たちの太り具合、毛色が私には気になってしょうがない。
もう懇願に近かったんです。
必死でした。だって、明日には私、帰っちゃうんだもの。
そして二度と、あの馬たちとは巡り合うことはない。

ガナー君もしぶしぶ承知してくれました。
でも、馬の商談に女でしかも外国人の私がでばると、値段がつりあがるから、車の窓から眺めていろ、といわれました。

ガナー君が馬の近くに行き、牧民たちと話しながら、その馬たちを私にみえるようにさりげなく、引っ張ってぐるぐると回してくれました。

遠目から見ても1頭はほれぼれするような馬です。ちょっと背中が鞍ズレしているけれど、肉がえぐれるほどではないし、1カ月も養生すればすぐよくなるはずです。

もう1頭は少し疲れているようで足をひきずっています。多分、長旅で足がうっ血してしまったのでしょう。頭の大きさがちょっとアンバランスに小さく、小柄で、胸の幅がちょっと狭いという感じ。
どうしても欲しい、というほどではないなぁ、と思ったのですが・・・

ここでモンゴル馬の特性というか性分が頭に引っ掛かってきました。

モンゴルの馬というのは帰巣本能がすごく強いんだとモンゴル人はよく言います。
1960年末頃にベトナム戦争の軍馬として供出された馬が、なんと中国大陸を縦断して故郷まで戻ってきたという話が新聞に乗ったほどです。

また遠方から購入した馬に「故郷を見せる」といって何年かに1度、故郷にいく旅をしてあげないと、いつのまにやら脱走して故郷に戻ってしまうんだ、といいます。

馬はわりとメンタル面が繊細なのです。
だから遠方から馬を買う場合は、雄の仔馬がいる若い雌馬を買うほうが定着しやすいといわれています。

で、私は思ったのです。
故郷を同じくし、一緒に1カ月あまりを旅してきた馬をまとめて購入したほうが、馬たちも心細くないんじゃないかしら、と。

馬の持ち主の言い値は「250,000トゥグルグから交渉する」ということ。
この「~から交渉する」というのは、言い値から多少の値引きは「あり」ということです。
で、値引きをする場合は、多分、まとめて購入、というほうが強気で値引きができる。

つまり、一頭250,000トゥグルグだったら、値引きしても、せいぜい230,000トゥグルグくらい。
20,000トゥグルグの値引きができたら上出来。またそれ以上の値引きは、やっぱり馬の主人にとっては残念な気持ちを起こさせてしまい、下手すれば交渉決裂なのです。

私の手持ちは、ガナー君が電話で交渉したという270,000トゥグルグの馬1頭分にガソリン代と今日のお土産購入やマッサージ、散髪代のために財布に忍ばせていた100,000トゥグルグ。

もちろん、1頭だけ購入してもいいのですが、でもなぁ、、、残念だなぁ、、、

さらに、またまたウランバートル市から西20km弱のところから、今家畜がいるナライハの先、つまりウランバートル市から東へ約80kmのところまでの100km移動を誰がどうやってするの?という問題が残ります。

結局、馬2頭を450,000トゥグルグで購入するってことで交渉成立したものの、輸送手段が、無い。

羊やヤギを加工場まで運ぶためのポーターと呼ばれる囲い付きの軽トラはあるけれど、往復200kmの燃料代や手間賃などをあわせると、その移動費だけで馬1頭分くらいかかっちゃうのです。



ガナー君、再びぐずぐず。馬主に10,000トゥグルグほどあげて、目的地まで連れてきてもらおうか、とか、友達に頼めないかなぁ、、、なんて現実的ではない方法に思いを巡らせています。

モンゴル人との商売、特に物を購入する、といった場合は、精算方法はなるべくシンプルかつ確実な方法を取るのがベストです。

見知らぬ相手なので、全額を今精算して、「じゃ、あとはよろしく。ちゃんと運んでね」なんてわけにはいきません。お金だけもらって、「これにて失礼」ってトンずらされても、明日、私はモンゴルを離れてしまうので、地団太踏むしかできません。
逆に「精算は無事2頭が現地についてから」なんていえば、トーバルチンは「そんなめんどくさいことするくらいなら、商談決裂だ」ってなっちゃいます。

なので、ちょっと時間はかかるけれど、今日中に解決するであろう方法を提案してみました。
いいだしっぺの委託牧民のおじさんにお願いしてみようよ、ということ。

ガナー君も「あ、それいいかも?だって、おじさんの提案なんだもの。きっと人件費とか小難しいことはいわないよ。移動に必要な飲み食い代で済むんじゃないかな。」とキラキラ目で、早速、電話!
便利な時代になったもんです。

するとおじさんは「わかった。ちょうど親戚が来ていて、これからウランバートルに戻るといっているから、鞍を持ってすぐ行くよ」と。

このタイミングのよさは、かなり幸先がよい!
待つこと2時間。この間にお土産購入を済ませて、不足分プラスαを家からピックアップ。さらに昼ごはんを食べて準備万全です。


ウランバートル周辺の私たちの羊がいる地域では1頭分のお金で、2頭のわりと元気ないい馬が買えたのです。


この馬主さんは、アルハンガイアイマグの東北部、フブスグルアイマグとの県境にあるツェツェルレグソムというところから1カ月かけて羊3000頭を8人の仲間と一緒にウランバートルまで連れてきたんだそうです。

馬にも愛着があるから、と「馬肉にするつもりなら売れない。乗用馬として可愛がってくれるなら譲る」というのが第一条件でした。

私たちの委託牧民のおじさんと合流して、すぐに馬たちのところに駆けつけました。

商談が成立した、とはいえ気まぐれな遊牧民たちです。
お金の授受がないから、もっといい条件が提示されたら、すぐに売っちゃうことでしょう。

あわてて戻ってみたら、ちゃんと馬たち、いました。

やっぱり、一頭はちょっとみすぼらしい感じ。体もちっちゃいし。

とはいえ、商談成立は成立です。
相手が値段を吊り上げることもできなければ、私の方が「やっぱりやめた。一頭でいいや」というわけにもいきません。

それに輸送コストは、委託牧民のおじさんの飲食代としての1万トゥグルグで済んじゃうのですから、こういうところでけちることはない。

ゆっくり休ませれば、きっと見違えるようにいい馬になるでしょう。
何よりも性格がとても穏やかで落ち着いています。
年齢も大きいほうは、まだ7,8歳くらい。小さいほうは12、13歳くらい。
小さい方は女性や旅行者などに乗せるにはちょうどいい年齢です。
大きい方も性格が人懐こい感じですし、元気いっぱいです。

お金を支払い、支払いの受け取りにサインをしてもらい、そして委託牧民おじさんに煙草2箱とミネラルウォーターと1万トゥグルグを渡して見送りました。

これで馬ゲットは完了です。

今日は9月12日。中旬というのに日中は30℃を超える暑さです。
ということは、今年の秋はいつもより少し長いかも・・・

10月にモンゴル復帰後もひょっとしたら、乗馬にいけるくらいかな?と期待しています。


とにかく、兼業遊牧民へのチャレンジは、ちょっとだけパワーアップした手ごたえを感じています。

なんとなく、ワクワクしながら、日本で大好きな人たちに話す、よい土産話ができたぞ、と帰国が楽しみになっています。

追記;2010年11月14日現在の2頭の馬たちの近況は?⇒コチラ