ボグド山はモンゴル国の自然保護区区分の中でも、もっとも規制が厳しい「ダルハン ツァーズタイ ガザル」(Дархан цаазтай газар)です。
昨日から燃え続けているこの山での火事は、山頂付近であるため、人海戦術・軍隊400名が消火作業に当たっていますが、消火用の水の運搬が大変で、消石灰や土など、そして防火帯を掘り、燃えくすぶる木々を除去するなどの作業そのものがなかなか進まずにいます。

24時間体制でがんばっているそうですが、なんといっても、一気に消火、とはいかず、おそらく3日3晩の消火作業で消せるかどうか・・・といった感じ。

今回の原因は、ここ数日の猛暑、という以外に、どうやら人的要因があるみたいなんです。

ここで、注意!

モンゴルはキャンプ場その他、日本ではなかなかできない、「直火」の焚き火が楽しめます。
三つの大きな石でかまどにして、煮炊きをしたり、バーベキューをしたり、長くて丈夫な木を使って、鍋をつるして、カウボーイ気分の野営もできちゃうので、私も焚き火が大好きです。

でも、とにかく、今年のように雨が少なく、猛暑が続く夏は、火の不始末が、この国に大変な損害を与えてしまいます。
山火事の後は、マツクイムシなどの害虫がはびこり、火事で弱った木々は病気にかかりやすくなります。せっかく火事で生き残っても、そのあとのダメージで森そのものが死んでしまうこともあり、極端に厳しいこの国の自然環境ではその後の、森林再生にも膨大な時間を要します。

モンゴル人は、基本的に焚き火などの中心、炎に水をかける、ということを嫌がります。
火の神様の目がつぶれる、というのです。
火を信仰し、崇拝する、その習慣は素敵ですが、都会のモンゴル人は、森林との付き合い方を知りません。

いっくらモンゴル人が「自然と共存する暮らしの遊牧の民」というイメージがあったとしても、都会の人たちは、ほんと、私達日本人がキャンプのイロハとして知っていることすら、認識していないことがたくさんあるのです。

たとえば、木の根っこ近くで焚き火をしちゃいけない、とかね。

これはなぜかというと、乾燥した大地は、地表だけでなく、焚き火の熱が地中にまで伝わり、静かに土の中でくすぶり始めるからです。
カラマツやモミなど針葉樹林が多いこの国は、腐葉土という感じではなく、松葉がそのまままるでフェルトのように組み合わさり、重さで凝縮した地面なので、発火しやすいのです。
地中に静かに熱が染み入り、それが乾燥した木の根っこに到達し、そして、ちょっと風が吹いて酸素が供給されれば、あっというまに火がつきます。

それは、焚き火をしているその場かもしれないし、3時間後かもしれない。
あるいは翌日かもしれません。

火の始末をきっちりつけておかなければ、悪気がなくても、取り返しのつかない被害を出す犯人になってしまうのです。

モンゴル人が「ダイジョウブ、ダイジョウブ」と自信たっぷりにいっていたとしても、絶対、確実に火を消してください。

無意識で無責任なタバコの吸殻のポイ捨てや、ミネラルウォーターのペットボトルのポイ捨て、ゴミをタルバガンのアナに突っ込んだりってことも、見逃さずにきっちりと処理するように徹底してください。

モンゴル人がぶーぶーいうかもしれないけれど、これはモンゴル国の大自然を守るために、絶対気をつけ、徹底しなければいけないことだと思います。

山火事であちちーというだけでなく、私はまたソガルさんたち、山火事の消火活動のために命を落とした人たちのことを思い出すのです。

ほんのちょっと気をつけて、めんどくさいって思いながらも、徹底することで、防げること。

ペットボトルだってレンズ効果ですんごい発火剤になります。

生ゴミや弁当箱のくずだって、ビニール袋に入れて、穴に突っ込んでおいたら、ガスが発生して、着火する可能性だってあるんです。

焚き火の火の始末は、きちんと灰や燃えさしに水をかけ、シャベルでまぜて、どろどろにし、周囲半径2-4mくらいの地面に手をあてて、熱がないかどうか確かめてみてください。

観光シーズンでヘリコプターも出払っています。
また、先日の15名の命を失ったヘリコプター事故の決着も賠償・保証も、まだ何も解決していません。
ゆえに、ヘリコプターを使っての、空からの消火活動、消化剤を空中からまく、などもできていないようなのです。

最近は、日本の観光パックツアーの中にも、徒歩のトレッキングや乗馬トレッキング、テント泊などの企画も増えているようです。
残念ながらモンゴル人の旅行アテンドスタッフ全員が、アウトドアの達人というわけではない、というのが実感です。

自分に責任ないもーん、というのは簡単だけど、でもやっぱり焚き火を楽しんだ人たち全員、平等に、火の始末をする責任があると自覚してほしいと思います。

私達の会社でやっているトレッキングなどのアウトドア系ツアーでも焚き火はやりますが、その際は、焚き火用の薪の集め方、かまどの作り方、火の起し方、木のくべ方、火加減調整のやり方、そして、焚き火の始末と消火完了の確認のやり方など、焚き火のAtoZをお話しながら、お客さんにも一緒に手伝ってもらいます。
そうすることで、火の使い方を一緒に学びます。

でも、そんな面倒なツアーだと、パックツアーのお客様にはなじまない。
だからこそ、モンゴル人スタッフの教育も必要なんですが・・・ハイシーズンになると、とにかく語学や性格優先で、あまりアウトドアノウハウなど技術面は後回しになりがちなのです。

私はもう二度と、誰かの火の不始末の尻拭いのための消火活動で、貴重な命を失いたくない。
モンゴルのマスコミだって、さんざん、そんな報道をしていたし、大統領だって政府の人たちだって、みんな、そういってたのだから、その言葉の責任を徹底してほしい。

ただでさえ、無責任な森林伐採や家畜頭数と放牧地管理のバランス調整もできなくなってたり、金鉱山などの乱開発で、自然は疲弊し、怒り狂い、人間に対して報復をしかけているのです。

聖なる山「ボグド山」の山頂付近は、今も赤々と燃え続けています。
それは、ウランバートル市民への警鐘だと、私は思います。

楽しいキャンプ、おおいに結構。
でも、火を扱うことを習慣化している地球上の唯一の生物として、我々、人類は、火を正しく使い、自然へのダメージを最小限にしなければいけないと思うのです。

最近は、日本でよく使った「いっとかん」やドラム缶を切ったものの中に薪を入れてやる焚き火、というのが安全だと思うようになり、事情が許す限りは、皆にぶーぶー言われながらも、小型の薪ストーブの煙突を外したものを持っていってます。