モンゴル国唯一のドルビーシステム採用のシネマコンプレックス映画館「テンギス」にて、3月3日から、角川映画「蒼き狼 地果て海尽きるまで」(モンゴルでは「Бөртэ чоно Чингис Хаан」)公開中ですが・・・

モンゴル人の映画評やモンゴルの新聞雑誌での批評を読むにつけ・・・

「関わらなくて良かった・・・」と思ってしまいます。(ごめんなさい、最後までやり遂げた方々には畏敬の念すら覚えるくらいなんですが、自分ではとても耐え切れなかった、ということです。関係者の方々、本当にお疲れ様でした。)

案の定、という気はするんだけど。

撮影中も、ドライバーとか通訳からギャラが支払ってもらえないとか色々、不平不満が出てたりしたから。
多分、モンゴル側のコーディネートが、日本からの支払いをガブチンして、ちゃんと支払ってなかった、とかそんなことなんだろうとは思うけど。

モンゴルの国内放送でもTV9などでは、
ロケ中のメイキング的な「日本との合作で映画技術も向上!」とか
「モンゴルと日本が協力して、世界に偉大なチンギスハーンを紹介する絶好の機会1」などと
一生懸命、好意的なプロモーション企画の連続番組をやったりとがんばってました。

ギネスブックに載りそうな映画史上最大のエキストラ参加撮影の後、
ウランバートル市で反対デモがあったこととかは、新聞でもほとんど取り上げないようにするとか。

モンゴル政府からのサポートも少なからずあったと思います。

最大人数ロケの後、炎天下に水も食料の配給も、予想外の人数が集まっちゃって、足りず、ロケ地に取り残された人もいた・・・ということですが、その後の火消し作業も日本人青年ビジネスマンががんばって、モンゴル大手日刊紙に全面広告での、感謝と謝罪をやっていたり・・・

転んでもただではおきない日本人魂・ビジネスマン魂を見せていただきました。
こういう戦略も今までのモンゴルにはなかったものだから、細かいことを言い出せば、自分的には蚊帳の外だったからこそ、いろんなことを学ばせていただいた感じです。


映画やテレビなど撮影に関わる人間としては、

監督さんはじめ、スタッフの皆さんが、朝早くに出発し、夜遅くにヘロヘロになりながら機材チェックやってたり、打ち合わせで走り回っている姿を、フラワーホテルでお客様に会いに行くたびに見ていたので、がんばってるなー、うまくいって欲しいなぁと思っていました。

監督が、まだ撮影始まったばかりの時に、
「馬が調達できない。モンゴル語の通訳スタッフが・・・。モンゴル人と一緒にやるのはペースがねぇ。。。」
などとホテル前のベンチで肩を落としていたこともあったけど、
それでも、映画作りにかける情熱や、ぼちぼちでもとにかく最後までやり遂げるぞ、という執念がにじみ出ている映画人とお話できたことは、ちょっと嬉しかったです。

現実問題として、秋までみっちりテレビ取材や調査などでスケジュールが詰まっていたので、どうにもお手伝いできる状況ではなかったし、既に始まっている仕事に途中からクビを突っ込んでも、映画という仕事はうまくいかないというのは、経験上わかっていたので、「がんばってください」としか言いようがなかったのだけれど。

教え子が、チンギスハーンの側室役でエキストラ出演したり、通訳スタッフとして採用していただいていたりしたのは嬉しかったし、たとえギャラがいくらだった、としても、長期間、日本人と一緒に仕事をする、ということで得られる経験は、何物にも変えがたい、一生自慢できるし、成長の糧になることだ、と喜んでもいました。

配役そのほかでの話は、お金が出ているところ、プロデューサーが決めることだから、文句いう筋合いはない。

撮影過程がどれだけ苦労しようと、どれだけ楽しかろうと、
結局、映画を見た人がどれだけいるか、興行収入がいくらあったか、、、
製作費をいくらかけようと、それが実際モンゴルにどれだけの経済効果があったか・・・
そんなことはまぁ、どうでもいいことで。

映画が大好きなので、やっぱり「心に感動を呼べる映画」だけを見たい、と思います。
そういう意味で、この「蒼き狼 地果て海尽きるまで」を見たいかどうかはまだ「?」

だって、話題が製作費とか、エキストラ動員人数とか、何カ国で同時上映とか、、、
数字ばっかりが紹介されていて、宣伝スポット見ても、どんな映画なのかちっともわからないから。

映画は先行投資的なところがあるから、
作るからには「あたる」作品にしないと
大赤字になります。

自分も映画会社で働いていたこともあるので、
プロモーションの大切さ、
出来・不出来もさることながら、
映画雑誌やTVやラジオの映画批評コーナーでの
評価をいかによくしてもらうための作戦を立てるか・・・

商業プロモーション戦略がものすごく重要で、
実際、日本での営業攻勢はほんとにがんばってるんだなー、
夏ロケの時に特派員のブログ連載などでも・・・

映画制作中のインターネットを使ったプロモーション戦略
勉強になるなぁ、、、なんてね。

とにかく、商業的、日本的である、ということだけは間違いないでしょう。

モンゴル的な映画作りだと、やっぱり、期間内では撮影も編集も終わらなかっただろうし・・・

自分もモンゴルとの合作映画、というのに10年以上前に関わったことがあるし、
何十本もモンゴル人と一緒にドキュメンタリー番組や映画を作っています。

映画人というのは、日本だけでなく、香港、アメリカ、韓国、モンゴルなど
いろんな国の方々と制作の立場で関わらせていただいたけど、
自国の映画文化・制作習慣から抜けられない人たちだなぁ、と思います。

妥協ができない人たちですね。
だからこそ、合作は難しい・・・

どこをどう妥協するかっていうのが本当に大変なんです。
折り合いっていう言葉・・・折れることができない部分同士の角のつき合わせをどう解決するのか。

モンゴル現地でどのような批判があっても、
日本では扱わないようにするとかの
マスコミ対策も、かなりがんばっていた、と思います。

映画公開されちゃってからは、
もはや観客次第。シビアな世界です。

モンゴル人の友人が送ってきたURL・・・
モンゴル人の「蒼き狼 地果て海尽きるまで」評
http://www.luunz.net/forum/index.php?topic=15073.msg185551#msg185551


自分が関わっていた作品だったら、
頭に血が上って、すごく落ち込むか、
怒りで眠れなくなりそう・・・

「見てから言えよー!」と。

でも、モンゴル人の感情とか意見も、わかるんです。
やっぱり自国の英雄ですからね。
国をまたがっての。

20年前は、チンギスハーンは公然と褒め称えることができなかったのに。

中にはとても冷静というか、
シニカルでクールな見方もあり。。。
「製作費を日本側が出して作ったものなんだから、仕方がない。
 いくら本で勉強したといっても、所詮は日本人は日本人。
 モンゴル人のことを完全に理解することはできないよ。
 おれたちモンゴル人がしっかりチンギスハーンとモンゴルの歴史を研究反映した映画を自分たちで作るしかないのさ。
 まぁ、チンギスハーンの名前も地に落ちたもんさ。
 商業的に使いたい奴が使えばいいよ・・・。」

モンゴル人の冷めた方。
この辺は大人の対応だな、と感心します。

「トロイ」だって「アレクサンダー」だって、
英語でハリウッドスターがやってても、
元祖の人たち怒って、騒いだりしてないですものね。

チンギスハーンだけ騒ぐのは
やっぱりモンゴルに対するアツイ思い入れのせいなのかなぁ。。。


そう、この映画は、角川さんがプロデューサーになったときから、
位置づけは「世界的に商業映画として成功させる」というところにあったわけですから。

ゆえに、モンゴル人俳優が主役級に使われることはなくなった。

日本人や韓国人の役者にモンゴル語を覚えさせて、不自然なセリフで演技がぎこちなくなるよりも、いっそ、日本語で通して、字幕で英語やモンゴル語については処理する・・・

商業映画としては、正しいあり方でしょう。

モンゴル民族の英雄・象徴的存在、という意味でチンギスハーンは偉大すぎるから、誰が配役されたとしても文句は出るでしょう。

やはり民主化が始まった当初、日本が製作費のほとんどを出して、モンゴル・日本合作映画、として作った
「Мөнх тэнгэрийн хүчин дор (日本では「チンギスハーン」として公開)だって、散々なことをいわれていたし、中国が制作したテレビドラマシリーズ「成吉思汗」だって、やはり異論を唱える人がいっぱいいました。

「成吉思汗」は、北京語で作られているけど、モンゴル国内での放送だと、北京語の上からモンゴル語の吹き替えが重ねられているので、面白くみることができます。

実に国際色豊かな遠征や外交交渉があったこととかわかったり、北京語でやってても、役者も製作スタッフも内モンゴルのモンゴル族の人たちだから、しぐさや人間関係の態度などモンゴルそのものです。

ストーリーよりも、細かい風俗習慣に目がいって、気にしだすと、せっかくのいい映画も台無しになってしまう・・・

これって、モンゴル民俗学をかじったことがある人のマニアックな悩みかな?

チンギスハーンも彼に関わった人たちも映像化が難しい人物なんですね。
人間関係が二転三転しhてドラマチック過ぎて、手に負えません。

でも、結局は噂先行なのかしら・・・

映画館で見た、という人も、
「途中から寝ちゃったのでよくわからない」

「日本映画だと思ってみれば、面白いのかなぁ?
 モンゴル人の名前が日本語で呼ばれると誰のことかわからなかったけど。。。」

「チンギスハーンが日本語しゃべってて、モンゴル語の字幕ってのがね。。。」

「途中で出てきちゃったから、どんな映画かって言われても・・・」

みたいな感じで、最後まできっちり見ての感想というのはないようです。
少なくとも私の周りでは。


ただ、井上靖の「蒼き狼」をもう20年以上も愛読し、
何度読んでも面白く、モンゴル的な風俗習慣という意味ではちょっと違うかな?
と思うところがあっても、モンゴル人の精神の本質をわくわくしながら実感し、
この名作を読み返して生まれてくる発見があるので、
この角川映画は、「蒼き狼」とタイトルは省略せずに、
しっかり森村誠一原作の「蒼き狼 地果て海尽きるまで」 という、まったく別モノの作品である、ということをしっかりアピールしていただきたい、と思う今日この頃です。


翻訳仕事が落ち着いたら、映画館の大画面で、即位式とか合戦とか迫力あるシーンを見たい、と思うかもしれません。

この角川映画のあとが、「OO7」シリーズの最新作が上映されるらしく、単純なアクション映画が好きなウランバートルっ子は、そっちを楽しみにしているみたいです。

日本での興行成績はいいみたいだけど、ごらんになった方はいらっしゃいますか?
結局、まぁ、話題になってるから見るか・・・といった感じも含め、興行的にはあたらないわけがない、、、という気もするけど。

映画はやっぱり見ないで批判はしてはいけない、、、と思いつつも、
実際の製作中に吹き出ていたモンゴルでの不満やそれをなだめるために
必死だったモンゴル人スタッフなど、
角川さんは構想27年だったそうですが、、
本来立ち上げていた「制作委員会」が数年前に記者会見していた
あのときの構想やキャスト・監督とずいぶん違う、、、ということに
最初から関わっていたモンゴル関係の先輩諸氏がどのようなお気持ちで
今のロードショーを受け止めているのか、興味深いです。

いつか自分も
思い入れて、全力投球で取り組んだ仕事でも、
資金力に負けて、夢破れる、ということがおこるかもしれないから。