カフェ内装のやり直しのために、日中、アンバーとアンバーの友達の大工さんと一緒にカフェで打ち合わせ。

話をつめるほどに、いい加減な工事をしかも中途半端で投げ出した業者とそれを選んだ財務君への怒りがこみあげる。

まぁ今更怒ったところでどうにもならない。
怒ってお金が戻ってくるならいいけれど、怒ったところで、逆切れした嫌がらせが跳ね返る危険性もあるので、もう前を向くしかない。

見積もりをやってみたら、また数千ドルがとんでいくことがわかった。
はぁ・・・

だけど、今のままじゃ、私の一生をかけた仕事自体が崩壊しかねない。
これもすべて試練じゃ。

とにかく捨てる馬鹿ありゃ拾う友あり、ということで
アンバーがやる気になってくれたのが救い、と思うことにする。

慎重にことを進めようとしたのが逆に障壁になった、ともいえる。

モンゴル人は行動しながら考える人たちなのだ。

もうこうなったら一緒に走るしかないのだ。
まさに手探り状態。試行錯誤である。

ソートンと一緒に、クタクタになって家に帰った。
ドアのところで、ソートンがなんだか胡散臭そうにクンクンしている。

ピン!ときた。
ダギーちゃんのお父さんが弟を連れて上京してきたのだ。

ソートンを押さえつけながら家に入ると、案の定、大きなクマさんみたいな寝姿がリビングルームにあった。
ブーツは二組。ダギーはいない。

あれ?弟は?
と思ったら、客間で寝ているらしい。
ソートンが、不吉なうなり声をあげているので、そのまま私の寝室まで引きずり込んだ。
部屋に閉じ込めてから、リビングルームの前を通ると、ダギーちゃんのお父さんはもう起きていた。

「あー、怖かった!イヌがいるから動かないようにしてたんだ。
 元気だったかい?」

モンゴル式の挨拶のキスをしてくれながら、ダギーちゃんのお父さんが照れくさそうに笑った。
ダギーちゃんのお父さんは、今でも現役のモンゴル相撲の力士で、フブスグルアイマグの関脇だ。

これぞ、モンゴルの男の中の男!というかっこよさがある。

その大きな体のお父さんがソートンを怖がるなんて!

モンゴル人はイヌを怖がる。
チンギスハーンだって子供の頃はイヌが苦手だったのだ。

ダギーちゃんのために、しこたま田舎から乳製品やお肉を持ってきていた。
これでしばらくまた肉が冷蔵庫と冷凍庫を占領することになるのだなぁ。

お父さんがダギーちゃんの弟を連れてきたのは、弟がちょっと癲癇気味で、春など季節の変わり目で体力的にも疲労がたまりやすいシーズンに、ひきつけをおこしやすいので、検査をウランバートルの専門病院で受けるためだ。

ダギーは、医科大の先生に相談してどの病院でどんな検査を受ければいいのかの相談と検査の予約に走り回っているのだそうだ。

ダギーの弟は、まだヤンチャ坊主だった頃に、
「山の主がいる」と地元の人たちが信仰している山で
精霊が宿る樹のあたりの崖で石を投げたことがあるそうだ。
そして、その石投げ遊びの翌日から高熱にうなされ、
癲癇発作がひどくなり、学校に通うことができなくなった。

でも心優しい男の子だ。
力持ちなので、家で家畜の世話などをしている。

しかし、原因不明な癲癇発作が頻繁になってきているため、家族は皆心配している。

世の中には、科学的に解明できない不思議な自然との関係が存在している。

私もフブスグルのタイガで、数多くの自然との不思議な交流を体験しているから、「山の主」を怒らせた、という地元の人たちの説明も理解できる。
だけど、だからといって、ずっとそのままというのはあまりにも辛い罰だ。

自然を大事にしなければとりかえしのつかないしっぺ返しを喰らう。

口で言うのは、文章にするのは簡単だけど、
その現象が家族に起きたとき、人間はその状況を受け入れながら、
それでもなんとか改善しようとあらゆる可能性をためす。

心優しい無口で力持ちの男の子。
勉強はやったことがなくても、家事の手伝いを一生懸命やり、弟や妹、家畜を可愛がっている。
彼は他人に対して何も悪いことはしない。
悪意も持たない。

たった1回、山の主が宿る山で悪戯をしたために癲癇に苦しんでいる。地元の人たちも家族も本人もそれを仕方がない因果応報だって受け止めている。

彼がこんなに苦しまなきゃいけないんだったら、
人間全体が地球にやったこと、やっていることはどれだけ恐ろしい因果応報があるのだろう?

ダギーちゃんは半年振りのお父さんと弟との再会にいつもよりさらにおしゃべりだ。
お父さんと弟君が持ってきてくれた肉をさっそく我が家で一番大きな大なべで塩茹でにしてくれた。

ソートンは、お父さんが石を投げて遊んでくれるので、すぐになついた。
弟君ともすぐ仲良しになってじゃれあっている。

ダギーちゃんの家族は、私にとっても大事な家族同然の人たちだ。

明日、お父さんと弟は、病院の検査に行く。
お父さんは、一張羅のデールを持参してきた。
こんな格好で明日行くんだよ!とお茶目にクルリと回って見せてくれた。

ダギーちゃんは、お父さんの帽子のかぶり方からデールの下のシャツの襟の出し方にいたるまで、スタイリスト魂を発揮してあーだこーだと世話を焼いている。

北の国からきたおとうさんは、もう汗でびっしょりだ。

「やれやれ。街を歩くってのは、服をきるだけでも大騒ぎだな」
ダギーちゃんのされるがままになっているお父さん。

地元であったときより、おしゃべりなのは、やっぱり自慢の娘に再会できたからかな。

ニギヤカになった我が家。
全ての部屋に誰かがいるって素敵だな。