LoRaWANとWi-Fiは好相性、組み合わせて幅広い用途に

 

2019/12/20 https://eetimes.jp/ee/articles/1912/20/news055.html

 

 IoT(モノのインターネット)の導入を進める際、無線接続ソリューションの選択肢が多過ぎて、その検討にかなりの時間を費やしてしまうのではないだろうか。しかし、Wi-FiとLoRaWANは、エッジからクラウドへのエンド・ツー・エンドのソリューションとしての相乗効果を生み出すことから、非常に魅力的な選択肢だといえる。このため、世界中の産業設備から都市全体に至るまで、さまざまなアプリケーションにおいて併用されている。Wi-FiとLoRaWANが、どのようにうまく連携しているのか、その理由を以下に取り上げていきたい。

 IoTでは、各種センサーなどのエッジデバイスから、インターネットへのコネクティビティが必要だ。エッジ上のプロトコルでは通常、IEEE 802.15.4ベースの規格であるBluetoothまたはWi-Fiのどちらかが選択される。いずれも、メッシュネットワーキング機能を備えているためだ。ここからデータがゲートウェイに伝送され、さらに、セルラーネットワークまたはLPWAN(Low Power Wireless Area Network)のいずれかを経由してインターネットに伝送される。

 Wi-Fiは、高速データ伝送が可能な唯一のプロトコルだが、アクセスポイントの消費電力量がかなり大きい。また、Wi-Fiの伝送距離は、見通し環境においてわずか200m程度にとどまり、使用するチャネル帯域幅は20MHz以上、周波数帯は2.4GHz帯と5GHz帯で、建物がある場合は電波が遮られてしまう。一方、LoRaWANを採用するエッジデバイスは、電力消費量がマイクロアンペアレベルである上、コイン電池だけで長期間動作が可能だ。プロトコルが使用するチャンネル幅は500kHz以下と非常に狭く、最大伝送電力は20dBm(50mW)である。さらに、サブギガヘルツ帯を使用するので障害物に強く、本質的に長距離伝送が可能だ。

 LoRaWANの愛好家たちは、テスト伝送で素晴らしい成果を得ている。例えば、スペインの研究チームは2018年7月に、指向性アンテナに風船を取り付けて、Hope ElectronicsのRF出力14dBm(25mW)の「RFM95W」トランシーバーを使用し、766kmという記録を達成した。

 LoRaWANは、エンド・ツー・エンドソリューションに必要なあらゆる機能を備え、世界140カ国以上で非常にうまく運用されているため、論理的に考えれば、Wi-Fiと組み合わせるのではなく単独で使用できると思われるかもしれない。

 しかし、Wi-Fiは、LoRaWANにはないスループットと低遅延性能を提供できる。つまり、Wi-FiとLoRaWANというまったく異なる2つの技術を併用すれば、より多彩な利用状況が想定される中で、どちらか一方だけでは対応できないソリューションを生み出すのである。この強力な組み合わせによって、さらに幅広い用途への扉が開かれる。

 

 

802.11mc対応ならば、高精度な測位も可能に

 また、この2つの技術を統合することは非常に簡単である。複数のデバイスメーカーが、Wi-FiとLoRaWANの両方をサポートするトランシーバーとゲートウェイを製造しており、LoRaWANゲートウェイにプラグインできるWi-Fiアクセスポイントアダプターを販売している。

 最新のLoRaWAN/Wi-Fiゲートウェイは前世代より小型化され、一般的にサイズはスマートフォン2台を積み重ねた程度で、価格は民生向けの標準的なWi-Fiアクセスポイントより安価な物も出てきている。その多くは、BluetoothとGPS、LoRaWANの全機能、複数レベルのセキュリティをサポートしている。デュアルプロトコルゲートウェイは、ゲートウェイのソフトウェアまたはスマートフォンアプリで簡単に設定できる。

 LoRaWANセンサーが生成したデータをWi-Fiに転送する処理はほとんど一瞬で完了するが、特定の条件で実行されるように調整することも可能だ。例えば、LoRaWANを使用するカメラが動きを検知してビデオ録画が開始されると、クラウドへの送信に必要な帯域幅と速度を有するWi-Fiに送信処理を引き渡すように設定することもできる。

 また、位置情報の取得とトラッキングを行うには、LoRaWANセンサーがWi-Fiアクセスポイントを“検知”し、条件を満たすアクセスポイントの数をLoRaWANクラウドに送信してから、三角測量と正確なタイムスタンプによって位置情報を取得する。IoTデバイスが1台の場合でも、利用可能なWi-Fiアクセスポイントの数に応じて、屋内で約10mの精度でWi-Fiベースの位置情報を取得できる。垂直方向の位置情報(高度)は、5つの強力なWi-Fi信号で約5m(都市部の屋外の場合は約20m)の精度で取得できる。

 さらに、「IEEE 802.11mc(IEEE 802.11REVmc、以下802.11mc)」規格で利用可能な高精細タイミング測定(往復時間もしくはRTT[Round Trip Time]とも呼ばれる)を使うと、精度を高めることができる。802.11mcは正確な位置情報技術の一つであるが、最近までメディアにあまり注目されていなかったため、進展があまり知られていない。802.11acは、モバイルOS「Android 9.0」でサポートしている規格で、今後数年間でさらに展開されると予想されている。802.11mcによって、測位精度は約1mまで向上し、Z軸(垂直)方向の位置情報を提供可能だ。従来はZ軸まで対応することは難しかった。

 Wi-Fi RTTでは3軸(X、Y、Z軸)全てにおいて測位精度が約1mに向上する。RTT対応のWi-FiアクセスポイントとLoRaWANを併用すれば、正確な位置精度が遠隔地にまで拡張できることになる。

 セルラーネットワークはLoRaWANのほとんどの機能を実現できるが、はるかに多くのインフラが必要となり、導入のコストが高くなる。Wi-FiとLoRaWANを組み合わせることで、他のさまざまな無線技術よりも、はるかに優れたユニークなソリューションを提供するだろう。