次の産業革命へ、勢いがある中国とのんびり日本




 情報通信やIoT(モノのインターネット)の分野で中国が急速に台頭している。インターネット人口の増加、モバイル端末やシェアリング経済の普及などを背景に、中国が「次の産業革命」をリードすると見られる。中国に出し抜かれないために、日本ができる戦略とは何か。今年4月に中国・成都を訪れた多摩大学客員教授の嶋聡氏に解説してもらった。



中国・四川省

「一帯一路」で活気づくパンダの里


 李克強(リークォーチャン)首相に続き、習近平国家主席の訪日も検討されるなど、日中関係に変化の兆しが見られる。

 トウ小平が「改革開放」を宣言して40年になる。松下幸之助は1978年10月28日、来日したトウ小平と会談した。「教えを請う姿勢で参りました」と言うトウ小平に「全力で支援するつもりです」と答えた。

 トウ小平が電子レンジ工場を見学したとき、シューマイを温めたところ、すぐ口に入れた。松下幸之助は「この指導者はすばらしい。表面を繕うことをしない」と感じ入ったという。その後、テレビ工場などを中国にいち早く造り、中国の近代化に貢献する。

 私が松下政経塾で、松下幸之助塾長に直接教えをいただいた縁もあり、今年4月、中国四川省成都で行われたIotシンポジウムにお招きいただいた。トウ小平は四川省出身である。

 四川省は、三国志で有名な劉備玄徳、諸葛孔明の「(しょく)」の国で、「成都」はその都であった地だ。人口約8000万人。面積48万5000平方キロと日本全土より大きい。成田空港から直行便で約5時間。パンダの生息地としても知られている。

 上海や深センなどを訪問した日本人が、「今や、スマホ革命では日本より中国の方が進んでいる」と感想を語るのは珍しくなくなった。

 それでも、パンダが住む自然豊かなイメージの四川省は、地域格差があるのではと予想していた。ところが、実際に目にした成都は、中国の国家戦略「一帯一路」によって活気づいていた。



ヨーロッパの需要を狙う成都


 成都双流国際空港には、プライベートジェット「ガルフストリームG650」が十数機も駐機していた。ビジネス需要が多いのだろう。

 “世界一のショッピングセンター”と紹介された「ニュー・センチュリー・グローバル・センター(新世紀環球中心)」も威容を誇っていた。広さ176万平方メートル。世界最大のオフィスビルとされる米国防総省(ペンタゴン)の3倍、豪シドニーのオペラハウスが20棟入るという建物内は、海洋楽園(プール)、五つ星のホテルもある。

 2018年には、世界各地で高さ200メートル以上の超高層ビルが230棟建つ。そのうちの6割、130棟が中国で建設される。成都では上海タワーの632メートルを超える677メートルの超高層ビルが計画中だ。

 シンポジウム主催者の一人、西南財経大学の湯継強教授は「一帯一路の北の玄関口が西安。南の玄関口がここ、成都です」と胸を張った。

 中国は今、ヨーロッパを向いている。21世紀のシルクロードとも言われる「一帯一路」。陸路は、ユーラシアを横断する連絡鉄道で中国の中西部から中央アジア、ヨーロッパを結ぶ。ポーランドなどの東ヨーロッパ、中央アジアの需要を安い中国製品で取り込み、輸出するとともに、ドイツの安全・安心な商品、技術を輸入するという循環である。ドイツでは紙おむつが中国の爆買いで不足し、中国企業のM&Aを懸念する声がある。

 

パンダの里からIoTの拠点へ


 湯教授は、成都の街づくりについてこんなエピソードを紹介してくれた。

 「2か月前、習近平国家主席が成都を訪れました。四川省、成都は、内陸部にあり、防御に強いということで、軍需産業が主力でした。航空機のエンジンなどを造っています。だが、これからはIoTです。頭脳労働の集積地にするためには、環境のいい公園都市にしなければなりません。習主席は『都市の中に公園をつくるのでなく、公園の中に都市を造れ』と言われました」

 かつて、中国は旧ソ連との軍事衝突に備え、国防上有利な四川省、重慶などの内陸部に軍需産業、重工業、発電所を集中的に造った。これを「三線建設」という。ちなみに、上海などの沿岸部を第一線。その西方、毛沢東の故郷、湖南省などが第二線である。軍需産業の基盤から、テレビメーカーとして知られる「長虹電子グループ」などが四川省から生まれた。

 「第三次産業革命ではすべてが再定義される。特に、同じ航空機エンジンを造っているGEがインダストリー・インターネットとして第三次産業革命に備えているという嶋先生の話を聞いて、ぜひ、四川で講演してもらいたいと思った」と、湯教授は語った。

 インターネットは元々、軍事技術であったものが、冷戦の終結によって米国防総省をスピンアウトした技術者が主導して開発したものだ。そう考えると、四川省がパンダの里からIoT時代の大きなイノベーションの拠点に変わるかもしれないという予感を持った。



シェアリングの利用意欲1位


 成都市内で目についたのはシェアリング自転車である。オレンジ色(Mobike=テンセント系)や黄色(Ofo=アリババ系)の自転車が、1時間1元(=約16.5円)で利用できる。借りるには、スマホ決済を使う。専用のアプリを起動させ、スマホのカメラを向け、QRコードを読み取ると解錠する。二つの簡単な作業で、手続きはわずか5秒で完了する。

 シェアリング自転車は街中にたくさんあり、GPSがついているので、スマホですぐに見つけることもできる。好きなところに乗っていき、そこで乗り捨ててもいい。専用駐輪場を整備するのでなく、「街すべてを駐輪場」にしたことで、シェアリング自転車は爆発的に普及した。

 私は合理的な中国人の国民性が、シェアリングを受け入れやすかったことが普及を後押しした要因だと思う。

 調査会社「ニールセン」が行ったシェアエコノミーに関するグローバル調査(2013年)で、「シェアリングサービスの利用に意欲的」とされたのは、中国の94%が最も高く、2位のインドネシアの87%を引き離し1位だった。ちなみに、米国、ヨーロッパ各国は50%程度、日本は40%にとどまっている。

 中国では、SNSの「微言(ウィーチャット)」に約7億6000万人、「QQ」に約5億8000万人が参加し、スマホ決済が当たり前になり、現金を持ち歩かなくなっている。購入動機、消費意欲、商品(サービス)選択などの経済的な意思決定が、企業のプロモーションやキャンペーンよりも、SNSの「友達」や仲間同士で交わされる推薦、レビュー、口コミによって左右される。

 だから、新サービスであっても、有益であれば、広告費をかけることなく、費用ゼロで一挙に広がる可能性がある。

 

第三次産業革命の通信インフラ、5G

 

 世界は第三次産業革命のパラダイムシフト(枠組みの転換)の中にある。企業が飛躍的に成長するのは、このパラダイムシフトに乗れるかどうかによる。「限界費用ゼロ社会」を書いた経済学者・ジェレミー・リフキンによると、「パラダイム」は「コミュニケーション手段」「エネルギー」「輸送手段」の三つで定義されるという。

 第一次産業革命は1776年、イギリスでジェームズ・ワットが蒸気機関を実用化したときに始まる。蒸気を動力源とする印刷機によって、情報伝達手段が大きく変化した。アダム・スミスの「国富論」は、同じ年に刊行されている。蒸気機関の応用によって石炭が安価に採掘されるようになり、鉄道機関車に利用される。印刷、石炭、鉄道でイギリスが世界をリードした。

 第二次産業革命はアメリカで起きた。グラハム・ベルによって発明されたアナログの「電話」によって世界中の人々が安価にコミュニケーションできるようになった。世界の油田をロックフェラーが押さえ、石油がエネルギー源となった。そして、内燃エンジンが発明され、フォードが大衆向けの自動車を量産、ガソリンの世界的供給網が整備された。電話、石油、自動車が第二次産業革命のパラダイムであった。

 第三次産業革命はまだ入り口だ。ただ、明確な兆しはある。化石燃料に代わる「再生可能エネルギー」の実用化。コミュニケーション手段は、インターネット、IoTとなり、高速の5G(第5世代移動通信システム)がインフラになる。「高速・大容量」「低遅延」「多接続」が特徴の5Gは、IoT革命の実現に不可欠である。通信速度が速いため、2時間のDVDが3秒でダウンロードできるようになり、高性能な動画配信も可能となる。

 産業界が特に注目しているのは、リアルタイムな遠隔操作が可能となる「低遅延」である。遅延とは、送ったデータを受信するまでにかかる時間のズレ(遅さ)のことだ。

 5Gでは無線区間の遅延を1ミリ秒以下とされており、離れた場所にいながら手術ができる遠隔医療も可能となる。自動運転のブレーキ操作にもズレがなくなり安全性が高まる。さらに、「多接続」は多数の機器を同時接続できるというもので、まさにIoT革命を推進することになる。



のんびりした日本の情報通信政策


 中国は5Gで主導権をとるために、アメリカでは好まれない政府主導の「産業政策」を強力に推し進めている。

 これを受けて、世界最大の携帯電話事業者「中国移動通信」(チャイナモバイル)が5Gの商用化を2019年末までに行うと宣言した。アメリカの商用化はAT&Tが行い、18年中とされている。

 今年2月にスペイン・バルセロナで開かれた世界最大級の携帯電話・タブレットの展示会「モバイル・ワールド・コングレス」で、チャイナモバイルは世界最大の5G試験ネットワークをつくると発表。電子取引大手の阿里巴巴集団(アリババ)本社のある杭州市と上海市など5都市で5G屋外試験を行い、北京市や成都市の12都市で5G事業と応用モデルを実施するという。

 日本では東京五輪・パラリンピックにあわせて、多くの政策目標が2020年をターゲットに動いている。5Gも例外ではない。孫子の兵法に「上策は(はかりごと)()つ」とある。日本が五輪開催の2020年に合わせているのを逆手に、5G覇権を狙う国々は1年でも、2年でも早めて、覇権争いを優位に進めようとしているのかもしれない。のんびりした日本の情報通信政策に危機感を覚える。

 

自動車産業に押し寄せる「CASE」

 

 第三次産業革命において、輸送手段は「進化した自動車」になろう。

 自動車はインターネットとつながり(Connected)、自動運転(Autonomous)となる。さらに、所有から共有・シェアリング(Shared)するようになり、電気自動車(Electric auto)になる。この頭文字をとって“CASE”とも呼ばれ、自動車産業は100年に一度の変革期に直面しているといわれる。

 自動運転車の分野においても、米中の争いは激しさを増している。

 「中国のグーグル」と呼ばれるネット検索大手の「百度」(バイドゥ)が自動運転の開発連合「アポロ計画」を始動させており、米フォード・モーター、独ダイムラー、米エヌビディアや米インテルなど自動車やIT(情報技術)の世界の大手企業約50社が参画している。

 2018年中に自動運転の小型車量産に入り、福建省廈門(アモイ)でハンドルのない小型バスを運行する計画がある。習主席がかつて副市長を務め、後に福建省長にもなったゆかりの地である。バイドゥとしても力が入る。

 電気自動車を巡っては、イーロン・マスク率いる米テスラが、中国で電池とEV(電気自動車)の一貫生産工場をつくることを表明している。

 中国国内の新車販売台数は、2887万台(2017年)と9年連続世界一である。日本の523万台と比べると、5倍以上の規模ということになる。そのうち、EVが122万台でこれも世界一である。

 中国政府は18年度中に、今まで50%以下としていた外資系自動車メーカーに対する出資規制を緩和するとしている。テスラはその第1号となるとみられる。テスラのこのスピード感とEVの巨大マーケット、中国をねらったクレバーな決断には感心する。



「14億プラス1億」の経済圏


 松下幸之助はかつて、「21世紀はアジアに繁栄が巡ってくる」として、中国の近代化に貢献するとともに、中国市場へ進出した。

 孫正義は2000年、中国のGDPが日本の6分の1だった時代に、「アジアを制するものは世界を制する」として、アリババのジャック・マーに20億円を投資して、3分の1の株を取得した。アリババは14年、ニューヨーク証券取引所に上場。25兆円の時価総額となった。20億円の投資は、4000倍の約8兆円に膨らんだ計算になる。これは、その後のソフトバンクの投資戦略を支えた。

 20世紀を代表する創業経営者である松下幸之助も、21世紀の代表格と言える孫正義も、多くの人が「中国はリスクがある」と言っていた時代に、リスクを見越した上で行動し、成功をつかんだ。

 「日本は人口が減少するからと悲観的な見通しが多い。だが、中国と一つの経済圏と考えれば、14億プラス1億で15億の経済圏となる。人口も減少するどころか増える」

 孫正義の言葉である。

 このところ、日本のベンチャー経営者と話すことが増えた。「少なくとも1兆円企業は目指したい」という志の高い若者が多い。ところが、中国とのビジネスを巡っては、難しいという印象を拭えず、どうしても身構えてしまうようだ。

 

恐るべし、中国の若き経営者


 一方、中国の若き経営者らはチャレンジ精神が旺盛で、日本にも頻繁に訪れて市場動向などを研究している。中国では、創業経営者たちが学び直すEMBA(エグゼクティブMBA)が盛んだ。MBA(経営学修士)の取得を目指すのは、主に20代後半~30代だが、EMBAは一定の成功を収めた30~40代の起業家が、さらなる飛躍を目指して学んでいる。

 授業料は、日本円で1000万円以上。アリババのジャック・マーも卒業した長江商学院や中欧国際商学院が有名で、日本で行った講義で私も何度か教壇に立った。熱心な学生から質問が相次ぎ、授業時間が足りなくなることは珍しくない。彼らは、松下幸之助や孫正義の「経営理念」を重視するマネジメントに関心を寄せ、安全安心な日本の商品、「顧客本位のサービス」を必死に学ぶ。

 引率の中国人教授に聞くと「学生のほとんどは成功した地位にあるが、学校と学友からもっと学びたいと考えている」とのことだ。中国の若き経営者、恐るべしである

 OECD(経済協力開発機構)の予想では、中国の実質GDPは2021年、アメリカを抜いて世界一になる。中国に対して様々な感情があるだろうが、これが現実である。

 第三次産業革命は、このままでは、中国がリードしてしまうだろう。松下幸之助も、孫正義もリスクをとりながら中国と付き合った。第三次産業革命の時代に日本の経営者に求められるのは、「14億人+1億人=15億人」の経済圏をにらんだクレバーな戦略なのである。