ひと:楊海英さん 内モンゴルの民族虐殺を告発する学者
ふるさと中国・内モンゴル自治区の知られざる現代史の記録「墓標なき草原」上下巻(岩波書店)を出版した。
衝撃的な内容だ。66年からの文化大革命期、モンゴル族が受けた民族虐待を証言や史料で明らかにした。死者は5万人ともいわれる。「少数民族の視点からの文革研究はこれまで無かった。内モンゴルでの文革は、漢族によるジェノサイドだったのです」
梅棹忠夫・国立民族学博物館初代館長にあこがれ来日した。90年から同館でモンゴル族の祭祀(さいし)儀礼の研究を始め、その過程で民族の伝統を断ち切る文革の実態を知った。
「『心が殺されている』というモンゴル語があります。文革の体験は今でも怖いのです。中国共産党は文革を否定しましたが、虐殺の真相は解明されないままです。18年にわたる調査で、被害者と一緒に何度も泣きました」
内モンゴルには旧「満州国」の一部が含まれる。「内モンゴルは日本の大陸政策の結果として出現し、『対日協力』が民族虐殺の口実の一つにされました。日本はこの本の陰の主人公です」と手厳しい。
「ただし、教育と軍事を与えた日本が、モンゴル族を近代に覚せいさせたことも間違いない事実です。また文革で禁止されたモンゴル文字を再学習し、封印されていたモンゴルの伝統文化の研究を指導してくれたのは国立民族学博物館の日本人教授陣でした。私の民族意識を覚せいさせてくれたのも日本なのです」【鈴木敬吾】
【略歴】ヤン・ハイイン 静岡大学人文学部教授。文学博士。日本人女性と結婚し、00年に日本国籍を取得。日本名は大野旭。45歳。


