『これはユ・ヒヨルに対するひがみのような類の感情からの営業妨害で、事実ではない』


私はある記事を眼にし、このように思った。今考えると私もそう思いたかったのだ。

そして連れ合いにもそのような記事があったことさえ口に出さなかった。


しかし数日後のある晩だった。私はとても軽い気持ちで何気なく、枕を整えている連れ合いに「そういえば、ちょっと前にこんな記事みたんだけど、あれなんだろう?…てか…この話知ってた?」と尋ねてみたのだ。



「え?何それ??全然知らない」


枕から布団に手を移そうとしていた連れ合いは、その言葉を言い終わる前にその手でタブレットを叩いていた。


少し前に起こった事件…韓国の音楽業界で騒ぎになり、後にニュースにも連日取り上げられた、国民的ミュージシャン、ユ・ヒヨル氏が坂本龍一氏の曲の類似を認め、謝罪することとなった事件。我が家では連夜討論が行われた。(討論?)




何故なら多くの韓国人の方々同様、私と連れ合いにとっても、それぞれショックな出来事となったからだ。


ユ・ヒヨル氏は、韓国で国民的アーティストの一人だ。高学歴でインテリなイメージと、親しみやすい雰囲気でバラエティ番組などにも出演し、彼の看板番組「ユ・ヒヨルのスケッチブック」は13年以上も続いた人気音楽番組の一つだった





タブレットから数分後…連れ合いが流したのは、ある韓国の音楽系Youtuberの動画だった。



その男性は、日本の音楽に精通し日本での音楽の仕事の経験もあり、現在は韓国に住在、音楽関係の仕事をされているという。スピッツの草野マサムネに大変よく似た彼が大変神妙な面持ちで事件について次のように語っていた。


『ユ・ヒヨルのある曲と坂本龍一の曲があまりにも似ている。耳で聴くだけでは、確信が出来ずAIに検索をかけてみたら、AIが全く同じ曲と認識した。


そして別のユ・ヒヨルのある曲について、彼がバラエティ番組で、ある質問に答えていた。


「ヒヨルさん、あなたのこの曲にダンスをつけるとしたら、どんなダンスですか?」


その質問の答えに、彼が笑いながら踊ったダンスを見た時、私は確信を持たざる負えなかった。


彼のその曲は、他国のミュージシャンの曲に似すぎていたのだ。そしてそのミュージシャンのPVで踊られているダンスと全く同じ動きをユ・ヒヨルがしていたのだ


更に彼の今までの曲を遡ると、このように盗作と思われる曲が多数見つかった。聴き比べをしてほしい…』




そういい終えた後…数曲のユ・ヒヨルの曲と元になったであろうと思われる曲が次々と交互に流された。


私自身もその聴き比べをしてみたが、大変ショッキングだった。正直『尊敬しているアーティストだったから、無意識のうちに似てしまった』というような説明は99%できないと感じる曲があまりにも多い。あえてここで詳しい曲を挙げる事は避けたいが、盗作されたと考えられる物の中には槇原敬之、玉置浩二の曲なども挙げられている。


私がショックを感じるよりも連れ合いの方がより、この問題に関して激しく動揺してた。彼の世代の多くにとってユ・ヒヨル氏の音楽、ユ・ヒヨルという存在は尊敬され、愛されるものであるからだ。そんな連れ合いのようにユ・ヒヨル氏(TOY時代含め)の曲と共に青春時代を過ごした多くの人々の心は大きくかき乱された。


その後ユ・ヒヨル氏は坂本龍一氏の曲についての類似を認め、坂本龍一氏本人にその事実を報告をする形となった。その他の曲については、事実と違う部分があると一部否定している。


昔から世界中でこのような事は珍しくない事件なのだと思う。きっとネットが普及する一昔前なら、当たり前くらいの物だったかもしれない。

もっと言ってしまえば、正直一つの作品について何の影響も受けていない作品はないのではないだろうか?


このように記すと私は「バレなければ盗作もあり」という風に考えているのかと捉える方がいらっしゃりそうだが、決してそうではない。まず私には大前提に『人のふんどしで相撲をとる』ようなことを恥ずかしいと思わない感覚が理解できない。


しかし私がこの事件で最も問題だと感じるのは


国民的アーティストのはずのユ・ヒヨル氏という存在が、ファンを軽くみるような行動を繰り返していたこと


そして彼自身がそのような行為をすることに対して平然と過ごしていられたという事だ。


インターネットがこれほど普及している時代なのだから「これはおかしい」という指摘が出てこないと考える方がおかしい。

それとも素人には聴き分けなどできないとでも思ったのだろうか?

どちらにしろ多くのファンがいるようなアーティストがこのような事を繰り返したという事はファンに対する裏切り行為であると思うのだ。


事実、連れ合いも「なんだか自分の青春さえ、裏切られたような気持ちになった…」という心情だったようだ。


ただ、一つ救いだったのは彼の盗作疑惑の曲を聴いた韓国の方が「日本の槇原敬之というアーティストをこの事件で初めて知ったが、とてもファンになった。これから聴いてみたい!」というような声があったことだ。


どんなとっかかりにせよ、新しく素晴らしい音楽に出会えた時の喜びは世界共通だ。

ユ・ヒヨル氏は謝罪を述べているが、疑惑になった曲の全ての類似を認めてはいない。


モヤモヤとした雲がかかったようなままのこの事件だが、確かなのは彼も音楽を愛してやまない男の一人である事だ。それだけは、間違いはないはずである。