『はい、これは黄色じゃなくてシルバーだから模造ね』

そう言われて、表面の色が褪せてしまったモデルガンを押収されてしまったご経験をお持ちの諸兄もおられることと思います。


慌てて、『わざと色を剥いでるわけじゃないんです。使っているうちに自然と色が褪せてしまっただけじゃないですか』と抗議したってムダ。

『君もコレクターを長くやってんだったら、知ってるよね?金属製のけん銃型モデルガンは表面を白か黄色じゃなきゃダメなんだろ。ユーザーは常にそこを意識して、黄色に保つように維持する注意義務があるんだよ』

『だったら、今すぐ黄色に塗りますから…』

『ダメダメ、そんなことしたら、証拠隠滅で逮捕するぞ』




46年規制前の黒くてガス抜けのままのモデルガンを押収されるということならまだしも、模擬銃器にすら該当しないsmGマーク付のモデルガンの色が褪せただけで、模造けん銃認定で押収されるなんて納得出来ませんよね。


銀色っぽくなった金属製モデルガンのどこに危険性があるのか?根本的なことは全く考えず、不充分な法律を楯に弱いものいじめする警察官は嫌いですね。

ホンモノの銃器で武装した凶悪な連中相手に命を張ってる捜査員とは性根が違うのでしょうね。オモチャのピストルを目の色変えて取り締まる奴らは小狡い連中ばかり。


僕らモデルガン愛好家も、しっかり法律を勉強して理論武装してなきゃ、半分強制的な『任意提出』に応じて、大切なコレクションを没収されてしまうことになります。

暴走族の改造車が整備不良で押収されても、整備不良箇所を直せば返してもらえますが、色の褪せたモデルガンはいくら色を塗るからと主張しても取り合ってもらえません。

道交法の整備不良と銃刀法の禁制品とはわけが違うんだ。ということらしいです。

確かに模造けん銃は所持が禁じられている『禁制品』ではありますが、『禁制品』などというと、実銃や仕込み刀、麻薬、覚醒剤など、それ自体に危険性があるものばかり。

色を塗りさえすれば合法になるものを『禁制品』だといって、返さないなんてね。


モデルガンの歴史は古く、最初に誕生して半世紀が経つことから中には、模造けん銃または模擬銃器に該当して、場合によっては懲役刑を受ける危険なものだと認定されるものもあるので注意が必要です。


アメンバーの皆様には、今さらそんなことを記事にしなくたって、分かりきったことじゃねえか。とお叱りを受けるかもしれませんが、僕の個人的なおさらいの意味で、モデルガン規制と、それによって生まれた名称である

・模造けん銃

・模擬銃器

の違いなどを語ってみましょう。


モデルガンというものが、この世に生まれたのが1960年代の初め。

日本のモデルガンの先駆者であったMGCの神保さんが名付けたもので、玩具でも模型でもない、等身大でズッシリ重く、ホンモノそっくりな銃器の模型。それは総金属製で銃口には板状のインサートはあるものの、火薬の発火ガスが火焔と共に銃口から噴き出す。それが本来のモデルガン。日常に実銃が存在しない平和な日本だから楽しめる銃のオモチャでありました。



モデルガンは、登場して間もなくして、あまりにもホンモノそっくりだと言うことで、危険性が指摘され始め、実銃と区別するために警察の指導を受けて本体の目立つ部分に王冠のマークを入れることになりました。





王冠マークは規格が決められていなかったようで、メーカーや時期によって違いがあるようです。


しかし、当然のことながら、本体とは言え、側面にマークを入れたって、銃口を突きつけられてそれを見分けることは出来ず、それよりも王冠マークがオモチャのマークなんて認知度は低く、無意味な措置でした。

それよりも、当時のモデルガンの銃口は板状のインサートが丸見えで、そのインサートの先っぽには目立つようなイボ状の突起まであったのですから、それを突きつけられると、すぐにニセモノだと見破られる状態でした。

MGCは王冠マークの有効性に疑問を抱いたのか、そのマークの付いた個体は少ないようですね。


昭和46年に施行された第1次モデルガン規制については、神保勉著『MGCをつくった男』に、その施行に至るまでの行政とのやりとりが記述されていますが、警察が業者を裏切った形で規制が断行されてしまったように記述されています。

おそらく、そのとおりのことが起きたのでしょう。


見た感じがホンモノそっくりだ。

それは、実銃を知る人にしか言えない感想のはず。

例えば、銀行員でも商店のレジ係の女性でも、金属製モデルガンと樹脂製のモデルガンの2つを見せて、その外観だけでどっちがホンモノだと思う?と問うときっと迷うことでしょう。

それは、2人ともホンモノのけん銃なんて見たことないのですから、判断なんて出来ませんよね。


ホンモノそっくりなモデルガンが脅しに使われるから、規制が必要だと判断したのは、モデルガンを手にして、その質感や重量感を体験した人が思いついたことであって、脅しに使われた事例が頻発したわけじゃないんですよね。

まあ、ハイジャック犯がPPKを使ったというのは、取り締まる側からすれば絶好の機会だったでしょうけれど。


MGCを中心とした業者と行政とがモデルガンのあり方について協議している最中、突如として規制が断行されてしまった。

その内容は

けん銃型モデルガンに限り

・銃口を完全に閉塞すること

・銃把を除く表面の全体を白または黄色にすること

でした。


ホンモノのけん銃に見えないように白か黄色にしなさい。なんてね。


この色を発案して実行してしまう、行政のセンスって素晴らしいですね。

こんな法律が出来てしまったんでは、業者はもう廃業するしかないでしょう。

昭和時代だから、行政もこんなムチャを通せたんでしょうね。



ご存じのとおり、黄色については金色でも良いというお目こぼしを得たことで、以後現在まで金色メッキが一般的になっています。

ただ、この金色が褪せて銀色っぽくなってしまうと、冒頭のように模造けん銃に認定されて押収・罰金ということになります。


1次規制発効直後は、塗装仕上げで金色になったモデルガンや、いわゆる虹色メッキという亜鉛メッキで金色っぽい感じで流通していましたが、いずれも簡単に表面の色が落とせるということで、昭和50年頃には剥離しにくいメッキ、つまり銅メッキの上にニッケルメッキが施され、さらに真鍮メッキで金色になったものが一般的なモデルガンの表面仕上げになりました。


銃口の完全閉塞については、その方法や鋼材を埋め込むことまでは指定していませんでしたので、銃身が亜鉛の棒状態になってしまっても、法定事項に沿っていることになり、以前のように鋼板インサートが設置されているよりもドリルで貫通させやすくなってしまいました。


モデルガンの魅力を徹底的に奪ったつもりの行政でしたが、銃口を塞いだことで逆に改造しやすくなったことに気付き、製造者に対し法定事項以上の改造防止策を求めるようになります。

46年規制で深刻な打撃を受けていた製造者側も、さらに規制を受けないように製造者組合を結成して、自主規制を図りました。

自主規制の内容は銃身内部への鋼材埋め込みや、鋼材入りシリンダーインサートの設置、センター打ち出来ないスライドブリーチ構造などで、この基準に沿ったモデルガンにはsmマークを打刻するようになりました。



smマークは自主規制なので字体も打刻位置もメーカーによりまちまちでした。


sm基準は自主規制ではありましたが、かなり改造困難と思われる有効な措置でした。
しかし、自主規制という縛りの甘さもあって、メーカーごとに鋼材の入れ方にも違いがあり、銃口にベアリングを埋め込んではいるが、銃身基部には何も鋼材を入れていない。というメーカーもありました。

最も重大だったのは、組合に加盟していないメーカーが自主規制に従わなかったことで、行政に睨まれることになります。
結果的に製造者の足並みが揃わず、自主規制では不充分だと捉えられ、2回目の規制が立案されてしまいます。
一説によりますと、この規制では当初金属製モデルガンの製造販売そのものを禁止することになっていたそうですが、1次規制の時とは違って、業者の抵抗により規制が一方的に断行されることはなく、行政側も大きく譲歩した形で落ち着いたようです。
ただし、それまでは任意であった鋼材の埋め込みは、その金属の硬度、形状、設置する位置まで細かく指定され、モデルガン本体の素材硬度や銃身分離型構造の禁止、そしてシリンダー隔壁スリットまで指定されたのでした。
この規制の特徴は、
上記の指定措置を改造が著しく困難な措置として、この措置を施していない金属製モデルガンを模擬銃器と定義付けて、販売目的所持を禁止したことなんですが、それ以前に模擬銃器の要件は
①金属製、②実銃と等身大、③撃発装置を持つこと
の3要件すべてが揃うことなんですね。
言い方を変えれば、模擬銃器の3要件が揃っていても、改造が著しく困難な措置を施したモデルガンは模擬銃器ではない。ということになります。
さらに言い方を変えるなら、3要件のひとつでも欠ければ、模擬銃器ではないということで、改造が著しく困難な措置は取らなくても良いし、販売目的所持が出来るということになります。



ややこしいので、単純にsmGマークの有無で判断するのが簡単ですが、このマークは法定事項ではないので、マークを削り落としていても違反ではありません。

smマークは自主規制の印。
smGマークは法定の改造が著しく困難な措置を施したものだと業者が証すために付けた印。
ということになります。
smG付のモデルガンであっても、色が褪せて銀色っぽくなると、模造けん銃で違反になります。

模擬銃器は、所持は認められていますので規制よりも前に購入したモデルガンは持ち続けても良いということになりました。
模造けん銃は所持が認められていませんでしたので、1次規制の時は法律の発効と共に銃口を塞いでペンキで黄色く塗るか、廃棄するしかありませんでした。
それに比べると、所持が認められたことはモデルガン愛好家にとって喜ぶべきことでありました。

1次規制前の黒いモデルガンの銃口を塞いで、表面に金色スプレーで塗装したものは模擬銃器ではありますが、所持は認められたわけです。

模擬銃器の販売目的所持というのが、業者を対象としたものか、あるいは個人間取引にも及ぶのか。
条文には販売の目的で所持してはならない。という風にしか書かれていませんので、これを見る限りでは、業者であろうと個人であろうと、模擬銃器を売るつもりで持ってはいけない。ということになります。
ただし、この法案が国会で審議されたときの警察の答弁は、個人間取引は取り締まりの対象とはしていない。と説明しています。この答弁の有効性は分かりませんが、規制から45年が過ぎた今までの間、smマーク付のモデルガンを売った人が検挙されたというニュースは見たことはありません。

2次規制の材質硬度制限というのは、銃身やフレームといった主要部品だけでなく、撃鉄、引き金、撃針(自動式には撃針そのものが設置出来ないので、これは回転式の撃針のこと)といった小部品が指定されて、規定硬度以上の素材を使うことが出来なくなりました。

メーカーは、行政に睨まれることを畏れて、指定部品以外の部品も鉄で作れなくなり、ある程度の硬度が必要な部品は壊れやすくなって、いわゆるパイソン病などがその良い例ですね。

制約の多い金属製モデルガンよりも樹脂製モデルガンの方が多く作られるようになり、80年代の後半頃には、連射出来るガス式エアソフトガンが登場したことなどで、金属製モデルガンは一気に下火となり、今や絶滅危惧種に成り下がってしまいました。