今でこそ、スタームルガーという銃器ブランドはモデルガン愛好家に広く知られていますが、昭和50年頃は知名度も低く、殆どの愛好家は知らなかったのではないでしょうか。


スタームルガーという名前よりも、アメリカンルガーと称されていたと思います。


アメリカンルガー。


僕が初めてその名に触れたのは、モデルガンに興味を持ちはじめて間もなくの昭和50年。


国際産業のカラーカタログで、モデルの宍戸錠氏が気取って構えている写真を見たのが最初でした。



これね。

この手に握られている見慣れないピストル。



カタログでは正式に紹介されてはいませんが、ホルスターのサイズ表にその名前が出てますね。

ルガーマーク1 通称アメリカンルガー

アメリカンルガーなんて、ちょっとカッコいい呼び名じゃないですか。

でもいったい何だ?

宍戸錠氏が持ってるこのけん銃がアメリカンルガーなのか?



金色には見えないボディーカラー。

特別感は募るばかり。

その頃、近所に住んでいた古木君という銃器に詳しい先輩が居て、その人にこの国際カタログを見せて「アメリカンルガーって知ってますか?」と訊いてみましたが、さすがの古木君も知りませんでした。

「トグルが付いてないみたいだね。ルガーというよりも南部式に近いのかな」

「南部式ですか?」

「うん、この写真見ると、ベイビーナンブによく似てると思うけどね」

僕は南部式のけん銃のことは何も知らなかったので、その後で古木君が熱く語ったくれた南部の甲型と乙型についてのウンチク話は残念なことに殆ど記憶に残っていません。



ルガーの変わり種というと、CMCのカタログに載ってたエルマルガー。

こちらはトグルジョイントも付いていて、僕の知ってるルガーに近い形をしていました。



それから少し経った頃、学校から帰っている途中、ちょうど通学路沿いにある古木君の家の前を通りかかったとき、家の前の空き地で軽トラから荷物を下ろしていた古木君に声をかけられました。

「おい、良いもの見つけたから、ちょっと家に寄れよ」

古木君は炭坑長屋に一人で住んでいて、襖を取っ払った押入れにモデルガンや軍装品を飾り付けていた。

その日は、卓袱台に僕を座らせると買ってきたばかりのような月刊ガンを開いて僕に差し出した。

「ほら、ここ見てごらん」

モノクロページにモデルガンとおぼしき広告が見開きで載っていた。

「ほら、これアメリカンルガーって書いてあるやろう」

古木君が指差す部分には確かにアメリカンルガーと書いてあったが、その写真はピーメだった。

「これキャバルリーやないとですか?」

「よく見ろよ。ピーメとは違うだろ。それはブラックホーク」

確かに、その広告にはアメリカンルガー357マグナム ブラックホークと書いてある。
リボルバーなのにルガー?357マグナム?
頭の中が混乱する。

「俺も迂闊だったなあ。アメリカンルガーって、ブラックホークのルガーのことだったんだ。ブラックホークなら知ってたよ」

「ブラックホークですか?」

「うん、正直言うと、それほど詳しくはないけどね。同じルガーでもP08を作ったドイツのルガーとは別物。
お前が勘違いしたように見た目はピーメにそっくりだけど、内部構造が違うんじゃなかったかなあ」



その数か月後、週刊少年ジャンプで「ドーベルマン刑事」の連載が始まりました。

武論尊原作、平松伸二作画のこの劇画は荒唐無稽だったけど、好きでよく読んでました。

同じ頃、ハドソンがブラックホーク44マグナムをガン誌の広告に載せるようになり、あっという間に認知されるようになりましたね。

ドーベルマン刑事を描いた平松氏はたぶん最初の頃はガン誌の広告を見て絵を描いていたのでしょう。
第1話にブラックホークの機構を無視した描写があるのは皆さんご存知でしょう。


CMCスタームルガーマーク1とマルシンP08。

比べてみると大きさがずいぶん違うのが分かります。




大人になって、ずいぶん経った後、あの宍戸錠氏が持っていたのは、長興という会社が作ったカスタムガンで、真鍮とステンレスで出来ていた。ということを知るのですが、その頃にはCMCのルガーマーク1も遊び倒していましたし、長興のスタームルガーには興味を感じることもなく時が過ぎるのでした。


スタームルガー

この銃器ブランドについて詳しく知るのは、月刊ガンのターク・タカノ氏の記事からでした。

そして、ブラックホークという銃はコルトやS&Wよりも廉価で丈夫。
実用重視のアメリカ人に人気があり、日本人客相手の射撃場でも多く活用されているということを知るのでした。


安っぽいイメージの強いスタームルガーですが、CMCのモデルガンはどことなく高級感を纏っています。


木目のきれいな木製グリップのせいでしょうか。

1缶200発入りの22LR弾を買って庭先で思う存分撃つのも楽しそう。