雨の日に
今日は冷たい雨が降っています。
冬の終わりの冷たい雨に、煙草や排気ガスの匂いが縞のように漂うと、イスタンブールのことを思い出します。
トルコには、かれこれ4カ月近く滞在しました。
たいていは1人だけど、友人とも行ったし、妻とも結婚前に行きました。
トルコには世界的な観光地がいくつもあるけど、カッパドキアにもパムッカレにも行かず、そのほとんどをイスタンブールで過ごしました。
どうしてイスタンブールだろう?
自分でもよくわからないけど、たぶん居心地がいいから。
着なれた服を着るように街を歩けるから。
何をするでもなく、一日一日を無為に過ごすだけ。
昼前にもそもそと起き出して煙草を吸い、歯を磨いて顔を洗ったら遅めの朝食を仕入れに近くの商店へ。
そこでバゲットとチーズとアイラン(塩味のヨーグルトドリンク)を買って安宿に戻り、簡単なサンドウィッチをこしらえて宿提供のチャイ(トルコはストレート)と一緒に腹に入れ、食後にアイランを一気に飲み干す。風呂上りのコーヒー牛乳みたいに。
その後しばらくはベッドの上でのんびり。
モスクの拡声器からアザーンが祈りの時間を呼び掛けると、文庫本を持って宿のテラスへ。
ボスフォラス海峡を一望できるテラスでチャイを飲みながらの読書はこの上ないひとときでした。
テラスと言ってもほとんど室内みたいになっていて、宿の家族が食事をしたりおかみさんが編み物をしていたり、子供たちが走り回っていて、どちらかというとダイニングみたいな感じ。
古布みたいな雲が幾重にも重く垂れさがった暗い空の下に、アジアとヨーロッパが対峙するボスフォラス海峡が眼下に横たわり、時折その境界の水面をイルカが跳躍する。
かろうじて破壊を免れたようなオンボロな建物がひしめきあう旧市街の街並みは色を失い、低所得者向け安アパートの屋根の褪せた褐色と、そこに身を縮ませて佇むカモメの白だけが色のない世界で際立っている。
きっと、そんな何でもない冬の一日の風景が、僕をあの街に留まらせたんじゃないかと思います。
ひとしきり読書に飽きると、カメラも持たず、小銭入れをポケットに入れて散歩へ。
特にどこを歩くと決めずに、気の向いた方向へ足を向ける。
バザールの喧噪、咥え煙草のオッサンたちが身を寄せ合って寒さをしのぐ船着き場の汽笛、イスラム教徒たちが敬虔な祈りをささげるモスクの静寂。手を煤だらけにしたおっさんが焼く栗の匂い、店先に自慢げに掲げられたドネルケバブの獣脂の匂い。
どこをどう歩いたのかはっきりとは思いだせないけど、音や匂いの方が映像よりも鮮明な気がします。
おなかが空いたらガラタ橋にある鯖サンドか新市街の市場にあるムール貝の串揚げでランチ、というのがちょっとした贅沢。
鯖サンドは橋下に船を浮かべて、その船の中で焼いた鯖をバゲットにはさんで食べるもの。
ホレ、と手渡されたサンドウィッチに、柵に括りつけられた容器に入った生の玉葱とトマトをお好みで挟んで、レモン汁をかけてかぶりつきます。
普通にうまい。日本人としては中の鯖でご飯を食べたくなるけど、バゲットでもうまい。
ムール貝の串揚げは絶品。
これもサンドウィッチにして、ニンニクの効いたヨーグルトソースでいただきます。
出すお店が少なくて、これを食べるためだけに40分くらい歩いたりもしました。
日本のトルコ料理屋さんでも、これを出してくれると行きたくなります。
いずれもかれこれ10年以上も前なので、今もやってるかどうかは定かじゃありません。
散歩の帰りにワインを買い、まだ明るいうちからチビチビやります。
他にも旅行者がいるので、たいていは彼らと一緒に飲みます。
バンコクで買い集めた海賊版のカセットを、中国で買ったオンボロのラジカセで流しながら、とりとめのない話を肴に夜更けまで。
ほぼこれと同じ生活をずっと続けていました(笑)
長い時には1か月くらい続けて。
こりゃイカン!と思い、顔見知りのパン屋に手伝いに行ったこともありましたが、なんせ夜の仕事(仕込み)なので、途中からみんなビールを飲み出す始末。体を動かした分だけ飲んでしまい、疲れて昼前まで寝てしまう。1週間くらい通ったけど、その後は客に戻りました。
あの頃はよかったな、と思うことはありません。
僕の青春は、きっとあの旅だったんだろうな、とは思います。
行けるようになったら、もう一回くらい目的のない旅をしてみてもいいかな、とは思うけど。
とりとめのない思い出話です。
この雨で思い出したので、とりあえずと思って書き出したらやけに長くなってしまいました。
てか、よくここまで読んだね!アンタ!
本日はオヒマデスカ?(笑)
いえいえ、ありがとうございました m(_ _ )m