トリップガール【1話】
金がない
どうにもこうにも金がない。
人間は「愛」だの「こころ」だのいうけれど、結局、金がなきゃ何も出来ないじゃないか。ゴミの臭いがする駅の構内で、生きているのか死んでいるのかわからない生活をしているあのくさい連中みたいに、「人間」という動物になるなんてまっぴらだ。でも、きっとこのままじゃ、そうなっちゃう。いつのまにかカラッポになっちゃう。どうしたらいいのかなんて、知っていたらこんなに苦しみはしない。
時間は
ある。
腐るほど。
腐るほどあるから、絶対に腐らしたくない。問題は金だ。9万で何が出来る。せっかく家を出ても、3日でカムバックチルドレンだ。金がいる。金が欲しい。準備は、もうだいぶ前からしてある。お気に入りの大きな黒いボストンには、沢山の洋服がつまっている。靴はあの赤いヒールがいい。化粧ポーチもOKだ。下着も4セット入れて、合宿でもないのにタオルを入れて、あとあのお気に入りの本も持っていこう。そうしよう。
この家出に関して重要で最新の注意を払わなければならないことは、「タイミング」。感覚的な家出衝動の一瞬をいつも狙っているのに、残念なことになかなかやってこない。せみの鳴き声が忙しく変りはじめたから、夏ももうすぐ終わるだろう。それまでには家を出たいなあ。出ないときっと私は難しそうな名前の病気にでもなって、ケボはいて病院送りのキチガイになってしまう。時間はもうちょっとしかない。もうそろそろ、やるっきゃない。