ツアーの中で一人、絵を描く“おじさま”がいた。

着いた先々で風景画を描いている。

さらさらっと描いてしまうのだが、これがまたうまい

絵が上手に描ける人を見ると、本当にうらやましくなる。

私もあんな風に描けたらなぁ。。。


その“おじさま”ご夫婦が、ハンガリーからスロバキアへ向かう国境近くで

買い物をした時、ほんの少しだけハンガリーの小銭が足りなかったことがあった。

困ったおじさまは、たまたま通りがかった私達に声を掛けた。


  「40フォリント貸してくれないか?」


ちょうど使い切れなかった小銭が残っていたため、

  「どうぞどうぞ、差し上げます。」

と手渡した。


でも、おじさまは

  「借りた40フォリントは、必ずどこかでお返しします。」

と言った。



翌朝、おじさまは 

  「いいこと考えた!」

と話しかけてきた。


  「私がこの旅で描いてきた絵の中から、好きな絵の複製を

  一枚描くから、それで40フォリント返すということで、どうだ?」


私達は狂喜して叫んだ。

  「え~!!いいんですか?!」


  「うん、そしたら私も初めて自分の絵が売れたことになる。」


私達は、喜んで絵を頂くことにした。

ハンガリーの「くさり橋」の絵。


最終日の朝、ホテルのロビーでそれは渡された。

裏にメッセージが書いてある。

表には、日付、サイン、値段(40フォリント)が記されていた。


40フォリントで買ったこの絵は、我が家の宝物だ。





注)40フォリント=24円