「お前たちの口喧嘩ですっかり忘れていた。僕も茜と同じカフェで働くことになったと伝えに来た」


「えっ、どういうこと?」


「言葉通りの意味のままだが…こんな簡単な文章の意味さえ理解できないほど、お前はバカなのか」


「理解はしてるけど、何で晶もわたしと同じ就職先なわけ?山科グループの会社に就職するんじゃないの?」


「僕も親の会社に就職するのがイヤなんだ」


「だからといって、何でわたしと同じところに就職するのよ」


「知り合いがいたほうが茜が安心すると思ったんだ。感謝しろ」


「余計なお世話‼わたしは大学時代の先輩がいるから大丈夫。ていうか、不安なのは晶のほうでしょ」


「……」


「黙ってるってことは図星?」


「違う‼就活して、たまたま内定をもらったところが、お前と一緒だっただけだ」


「はいはい、そういうことにしてあげる」


「……事情はどうあれ、これから同じ職場だ。よろしく」


「わたしはせっかく知らない場所で働けると思ったのに…」


「茜様。そういうことを言ってはいけません。晶様、茜様をよろしくお願いいたします」


「僕が茜の面倒を見るから安心してくれ」


「面倒なんて見てくれなくていい‼もうイヤ‼」


わたしの叫びは中岡と晶には届かなかった。


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初出勤日。


「茜様。カフェまでお送りいたします」


「電車で行くから大丈夫」


「お見送りくらいさせてください」


「九条家の令嬢だって知られたくないの」


「車でお送りするくらいで、九条家のご令嬢だとは分かりませんよ」


「その車が問題なの‼」


「リムジンの何が問題なのですか?」


「普通の人はリムジンで出勤なんかしないの‼」


「そうなのですか?」


中岡は不思議そうに、そう言った。


わたしも世間知らずなところがあるけど、中岡も相当な世間知らずだ。


執事の家庭に生まれ、代々九条家につかえ、幼稚園から名門と呼ばれる私立校に通っていたから無理はない。


「朝は送ってくれなくて大丈夫。でも、帰りは駅まで迎えに来てほしいんだけど、お願いできる?」


「もちろんでございます。では、いってらっしゃいませ」


「うん、いってきます」


中岡に見送られ、カフェに向かう。