「シャルロット!危ない!!!」
そういってオイラはあの時、堕ちた聖者になってしまったヒースさんに致命傷を与えてしまった。
ダークリッチになってしまった仮面の導師も倒し、世界も平和になった。
聖剣の勇者としてシャルロットはウェンデルに帰ると、そこにはヒースさんもいた。
大泣きするシャルロットを見て、オイラはうれしかった。
と同時に、どうしてもヒースさんに伝えたい言葉があった・・・。

 

 

ー希望の手ー

 

 

「あ!ケヴィンしゃん!」
ぶんぶんと手を振っているシャルロットの出迎えに、ケヴィンは手を振る。
あの後…いったん、世界を救った後、それぞれの故郷に帰った後、ケヴィンは度々ウェンデルに足を運んでいた。ビーストキングダムは、ウェンデルを侵略しようと動いていた。そのことは世界各地に獣人は恐ろしい、という印象を与えてしまっていた。そのため、獣人王の後継ぎとしてケヴィンがウェンデルに出向いて交流を始めたのだ。近いものだと、仮装した子供たちにお菓子を配ったりもした。子供たちはカールにもよくなついてくれたし、最近だと住民から少しずつ声もかけられるようになった。獣人と人間のハーフである自分が、こんな形で故郷や他の国で受け入れられるようになったと思ったのは、最近のことだ。

「シャルロット!ヒースさん、どこ?」
「も~~~~ケヴィンしゃん、まいかいきいてまちねそれ。まずレディへのあいさつからでちょ!?」
「ごめん」
ケヴィンはかれこれ、ヒースにどうしても伝えたい言葉があり、ウェンデルに出向くたびに会おうとするのだが、毎回ヒースとは入れ違いになる。今回はヒースも外出していて、ここにはいないらしい。
「ミックがおともについていったんでちがね、おにもつになってないかしんぱいでち」
「ミック 前より強くなった!」
「なんであんたしゃんにけいこをつけてもらったのかはわからないでちが、ミックからたのんだのがおどろきでち」
ミックは、最初ケヴィンに対して警戒して声をかけてこなかった。しかしある時、ミックから稽古をつけてほしいと頼まれたのだ。彼の武器はフレイルだったが、基礎は習ったものの練習相手がいないと悩んでいたため、声をかけたらしい。もちろん、一度もケヴィンには勝てていない。それでも今回ヒースとの外出に同行を頼まれたのも、努力あってのことだったと思う。

「あ!シャルロットさぁん!!!」
「ミック!ヒース!!!」
シャルロットが駆けていくとそこには外出から帰ったヒースとミックがいた。
「シャルロット、ただいま」
シャルロットの頭をなでているヒースはケヴィンの存在に気付くと、にこりと笑いかけてきた。
ケヴィンは一礼すると、荷物を抱えたままではと宿屋へ向かう。その様子をシャルロットが不思議に思ってると、ミックも荷物を運んで先に神殿へ向かう。
「へんなケヴィンしゃん。さっきまでヒースのこときいてきてたのに」
「…それは本当かい?」
「うん!」
ヒースは何となく、彼が言いたい言葉がわかっていた。今までたまたま入れ違いだった。まともに話すのは今回が初めてだった。
「僕もケヴィンくんには用があるんだ。シャルロット、ミックと一緒に神殿へ戻ってくれるかい?」
「ん~~~~~?わかったでち」

 

 

「ケヴィンくん、ここにいるかい?」
宿屋で荷物を整理していたケヴィンにヒースは声をかけた。
ケヴィンはヒースの声に気づき、どこか気まずそうな様子の彼にヒースから話しかけた。
「シャルロットから聞いたよ。僕を探していたのでしょう?」
「オイラ、言いたいことある」
「うん」
ケヴィンは一呼吸置いた後、静かに言う。
「ヒースさん、ごめんなさい。あの時オイラ、アンタを…」
「僕は自分の魔法で一度消滅したんだ。君のせいじゃない」
「でも…」
「君の手でシャルロットを助けてくれなかったら、僕はここにはいなかっただろう」
ヒースはケヴィンの訓練された手を優しく握ると、目を閉じて静かに話す。
「君はこの手で、シャルロットを守って、世界を守ったんだ。そのことはもう少し誇ってくれていいんだよ。そして、僕だってその一人さ」

ケヴィンは、親友であるカールを殺めたと思い込み旅に出た。
光の司祭に「生き返らせることはできない」、そういわれて旅の目的もなくなったも同然だったが、フェアリーに選ばれたシャルロットが命運を背負ってると知り、旅の同行に申し出た。成り行きだったとはいえ、ケヴィンは最後までシャルロットを守って見せたのだ。ヒースもそのことは重々分かっていた。
それでも謝ってくるだろう、ケヴィンはそういう人だとヒースは思っていた。
それでもどこかで罪悪感を見せた顔をするケヴィンに対して、ヒースはアイデアを出した。
「ねぇケヴィンくん、これからシャルロットやミックとご飯を食べるんだ。いっしょにどうだい?」
「え、でもオイラが行っても?」
「みんな喜ぶよ。それにほら、見てごらん」
窓の外を見ると、町の子供たちがのぞき込んでいた。いまやケヴィンは、子供たちのヒーローのような存在なのだ。
「ヒーローをおもてなしできなかったら僕のほうこそ申し訳なく思うよ」
「わかった!行こう!」
「旅のお話聞かせてよ。どんな風に世界を回ったのか」
「もちろん!」

 

 

神殿内ではささやかな食事会が行われた。ミックはケヴィンとどれだけ食べれるかを競って先に脱落、それを見て笑うシャルロット…ヒースはそんな様子を見ながら思った。

僕がなぜ生きているのか、生かしてくれたのか…。
この光景を、女神さまは見せたかったのかもしれないな…。

無邪気に笑うシャルロットの声を聞きながら、ヒースは静かに見守っていた。ケヴィンはヒースと目が合うと少し照れたように笑っていた。マナが失われても、人々は歩いて行けるのか?そんなことを考えてばかりの日々の合間の、ちょっとしたひとときを、ヒースは忘れたくなかった。

 

-あとがき-

ピクシブの作品をこちらに持ってきました。ケヴィシャル関係のカテゴリにおいてますがシャルロットが勇者ルートのその後を妄想して書いたものです。

聖剣関係のものは今後はアメブロに投げていくつもりです。しばらく過去絵、小説掲載が続くと思いますがよろしくお願いします。