緊急事態宣言が出ていた頃よりもっとひどい状況になっているような気がする今日この頃ですが、そんなことは絶対に認められないみたい。
認めてしまったら、日本は消滅してしまうと、信じているみたい。
なんか、外出自粛が声高に叫ばれていた時よりも閉塞感を感じています
まぁ、あくまで個人的な話で、別に誰に何を言われているわけでもないんですが。
とにかく。
自分のためにも周りのためにも、不要不急の外出を避けて行動するのは大切なことだと思うんですが、私にとってはどうしても「不要」ではない用事があったので、めちゃくちゃ悩んだ揚げ句、思い切って出かけることにしました。
野田秀樹作・演出「赤鬼」@東京芸術劇場シアターイースト
この時代だからこそ上演したのか、と思いきや、ただ偶然の一致だったようで。
演劇って、不要でないのはもちろんのこと、「不急」でもないと、私は思っているんです。だって、その会場で、そのキャストで、その日のコンディションで同じ作品を観られることは二度とないんだもの
だから今回の機会も、私にとっては、やっぱり不要不急では有り得ないの
もちろん、常時マスク着用、こまめな手指消毒を徹底して、個人でできる感染予防対策はすべて打って出かけました。
本当に、どうしても、見たかったから。
野田秀樹の「赤鬼」
私のブログを呼んでくださっている方々の中で、この作品をご存知の方はいらっしゃるでしょうか。
元々舞台演劇に興味のある方ならきっと知っていると思いますが、2.5次元から演劇に興味を持ちはじめた方は、あんまりご存知無いかな?
この作品をエンターテインメント扱いしていいかどうかは、自分の中でかなり葛藤があるんですが、とにかく演劇をエンターテインメントの一つと考えるなら、やはりこの作品もまたそうだと言う他ないんだと思います。
全然、楽しい気分になれる作品ではないんですけどね
「赤鬼」の台本は、新潮社『解散後全劇作』という本に収録されています。
(ご興味あればこちらから詳細が見れます)
主たる登場人物は4人。
ある閉鎖的な浜辺の村が舞台です。
ストーリーは…是非台本なり、舞台なりでご覧になってみてください。
というのも、あらすじなんて、その気になればほんの数行で書けてしまうのですけれど、このお話にはあまりにもたくさんの「悲劇的な出来事」が内包されていて、それをどうしたら客観的に伝えられるか、私にはさっぱり分からないのです。
なので、この記事はたんに私の覚書に過ぎないものです。その点、ご了承下さい。
今回の公演ではメンバーを変えて4チームが組まれていました。
私が観たのはDチームの初日。
トンビ:松本誠さん
あの女:北浦愛さん
ミズカネ:吉田朋弘さん
赤鬼:森田真和さん
を中心に、全17名の演者の緒戦でした。
そう、それはまさしく、緒戦という感じだったんです。
これはもう、戦い。
中央の床を舞台として、四方を客席で囲むような形の会場。
客席と舞台の間には、感染予防のためのビニールシートが吊られていました。
開演前は、そのビニールシートに客席が反射して映り、また向こうの客席の様子も歪んで見えたりして、やっぱりこの状況で演劇をやるってものすごく辛いな、と思ったんですよね。
ところが、はじまってみたらそんなのは全く杞憂でした。
静かに漕ぎ出てきた人々の群れ、巻き起こる激しい嵐、荒れ狂う海…
いつのまにかはじまっていた物語の冒頭、舞台に光が入った瞬間、ビニールシートの存在は無になりました。
これは本当に驚いたのですが、照明が変わった途端に歪んでいた視界はびっくりするほど透き通って、一瞬、ビニールシート引き上げたのかな?と思ったほどでした。そんな訳ないんですけど。笑
特にものすごく動きの激しいシーンだったので、ちょっとした視界の歪みとか、全然気にならなかったんですよね。
もちろん、その後、静かなシーンになると、やはり少々見え方が歪むことがありましたが…でも、このお話自体がちょっと寓話的なムードをもっているので、その少しの歪みが「隔絶された世界」という感じを出していたし、更に向こう側の客席前のシートには舞台上の景色が反射するので、それがまた独特の世界観を演出していたんですよね。
なので、ビニールシートは良い効果になっていたようにも思います。少なくとも、物語を邪魔するものにはなっていませんでした
今回の舞台で、最も印象に残ったのは、やはりトンビでしょうか。
知的障がいを持つ、「あの女」の兄。
体の大きな彼の、澄んだ瞳と、イノセントな語り口は、すごく印象的でした。
トンビはこの作品の、言わば狂言回しです。
彼は自分について、繰り返し「自分は頭が足りない」と言います。彼の妹も、村の周囲の人間も、そう認識しています。
ところがこのトンビ、案外と村人達から邪険にされていません。
相手にされていないという側面もあるのですが、そのために迫害を受けているという訳では無いんですね。
ところがその妹は、周囲から蔑みを込めて「あの女」と呼ばれ、迫害を受けている。
そこに、この作品のミソがあると、私は感じています。
登場人物としての名前すら「あの女」と書かれているこの女性、本当はフクという名前があります。
これはきっと「福の神は海の向こうから来る」というよくある言い伝えから取ったものではないかと思うのですが、本当にエッジの効いた、悲しい皮肉です。
自分の状況がよく分かっている、物事をありのままに見ることが出来る、真相を見抜き言葉にすることが出来る、そんな賢い「よそ者」の女が、周囲からどういう目で見られるか。
それを、冷酷なまでにありのまま表現しているのが、この作品の主人公の一人である「あの女」です。
今回演じた北浦愛さん、透明感があり、芯のすっと通った硬さを感じさせる女優さんで、彼女が船に揺られて笑っているシーンは、見ているだけでこちらの胸にしんしんと絶望が沁みてくる様でした。
もちろん赤鬼も素晴らしかったし、ミズカネも素晴らしかった。
ミズカネ役の吉田朋弘さん、若いのに、迫力がありとってもハンサムで、素敵なミズカネでした。正しく、優しく、狡く、脆い、そんな彼のすべての側面を体現していたと思います。
でも、やっぱり最後はトンビが持っていったなぁ。
あの最後の長ゼリフが、あんなに淡々と、美しく、残酷に響いてくるなんて思ってもいませんでした。
見通せる向こうが見たくて、でも決して辿り着けなかったすべての魂。
トンビはきっと、たった一人だけ、寄せては返す波の向こうの、決して近付くことが出来ない「海の向こう」を、悠然と眺め続けることができるのでしょう。
その名の通り、とんびのように、希望の翼を広げ、大空をくるくる周りながら。
改めて、生の舞台でこの作品を観て、やっぱりこの作品をエンターテインメント扱いするのは、自分には無理だなと思いました。
だって、あまりにもやるせない。
苦しいものや悲しいものを、どうにもならない切なさを突きつけてくるものを、どうして「エンターテインメント」だと言うことができるでしょうか。
だがしかし、ならばこれをなんと呼ぶか。
私は、これこそを、「演劇」であると言いたい。
魂を引き裂かれても見なければいけない。
血を吐いてでも見せなければならない。
そんな、誰かの命がけの「表現」を、私は「演劇」だと思いたいのです。
まぁ、本当のところ、その「演劇」が、観て元気が出たり、幸せになったりするものであれば、より良いんですけどねぇ…。
正直、私はしばらくこの絶望感を引きずってしまいそうです…。
そんなわけで、めちゃくちゃおすすめする気力は到底湧いてこないのですが、でも、もし良かったら、いつかきっと観て欲しいと思います。
そしてその時には、この作品を観て感じたことを、丁寧に語り合ってみたいのです。
https://www.geigeki.jp/performance/theater240/
こちらの舞台は、16日が千秋楽です!
劇場の感染対策は、気の毒なほど徹底していますよ。
正直、怖いのはそこに至るまでの交通機関の方です…
さて。
お盆休みも、もう終了。
楽しい時間ってあっという間に過ぎてしまうのね
とりあえず、私は刀ステの新作を観て、日常生活に戻れる健康な心を回復したいと思います…。
というか、さっき途中までストリーミングで観ていたんですけれど、我が家のネット環境が悪過ぎて、とてもとても観ていられなくなっちゃったんです…
なので、ただいまダウンロード中…まだ暫く時間がかかりそうです。とほほ。
ちなみにまだご覧になっていない方々、見逃し配信は16日(日)までです
お互い、見逃さないようにしましょうね
ちなみに、見逃し配信はまだ購入可能です
https://www.dmm.com/digital/cinema/-/detail/=/cid=5479toukenb00012rs/?i3_ref=search&i3_ord=1
さ、今夜はダウンロード(そろそろ終わるはずだから)で刀ステと、MIU404を観るぞ〜
では、皆様も、良い週末を