怒涛の一週間をなんとか息抜き、土曜にようやく辿り着いたわけですが…
楽しみにしていたこちらの作品、我が家のネット環境の悪さで思うように鑑賞できなかったため、1日遅れで再視聴。
やっぱり、よかった。




北村諒「ひとりしばい」
ひとりシャドウストライカー、
またはセカンドトップ、
またはラインブレイカー






前二回の評判がよかったので、たった一人の俳優である北村諒さんも、脚本・演出の西田大輔さんも、プレッシャーだったのではないかと思うんですが。


もちろん、賛否両論あると思いますけど。
私はすごく、良かったと思う。



まぁ、私はもともと、西田さんの脚本って激烈に好みってわけではないので、両手を上げて「きゃーすごーい!!!」「最高!!!」と思っなわけじゃないんですけども。
でも、今まで知っている彼の脚本の中では、好きだなと思いました…それは、この脚本の中に、強い主張があるから。
人によっては、反発するだろう。
人によっては、訳が分からないだろう。
場合によっては攻撃されるかもしれない。
そういう「政治的な」主張。

私は、それが凄くいいなと思いました。

媒体によっては規制されかねない「個人の主張」も、演劇という手法を使えば堂々と主張できる。
きっと、そんな話は聞きたくないという人が多いだろうと思うけど。
政治的な発言はやめてくださいムキーっていう人がたくさんいると思うけど。
そんなのクソ食らえって、自分の考えをしっかり表現する。そういう演劇のいいところを、余すところなく発揮した作品だったと思うんです。

まぁ、いろんな考え方があると思うし、この作品が描いたことに反発する人々を悪いとか間違っているというつもりはないけど。
でも、今の世の中、人種や民族を差別したり、自分の言うこと聞かせるために誰かを痛めつけたり、財産を得るために戦争をしたり。
誰かを迫害したり。
差別したり、排除したり。
そういうことを「悪いことだ」と思わない人が、確実に増えているような気がするんです。


普通の人々。
それがどのようにして「邪悪な人々」になるのか。
それを真正面から描いた作品だと、私は思いました。



…意見が合わなければ、ごめんなさいね。



まぁ、だから、この「ひとりしばい」三作品の中では、今回の作品は最も賛否が分かれるかなという感じがしました。
テーマとしては、第一回の荒牧慶彦主演作「断」と共通するところがあるのかもしれないけど、こっちの方がストレートに「政治的」だから。

今の世界は、政治的なことに敏感ですからね。
大事なことなのにね。





まぁ、そんなことはいいや。
いろんな考え方があるから。
でも、私はこの脚本を書いた、そして演出した西田さんを尊敬するし、ここに込められた想いを演じ切った北村さんを称賛します。

脚本とか、そういうことを抜きに語りたいことはたくさんある。
照明や音響や映像や衣装や小道具やヘアメイクや…そういうすべての、この作品を作るのに必要な人々の仕事、そのどれも素晴らしかった。
忙しなく、けれどもエモーショナルに切り替わっていく照明、スタイリッシュな映像と、内なる衝動にシンクロした音楽、絶妙なカメラワーク。
ああ、これが感情の魔術師、か。
そう実感した、たった1時間の芝居でした。
まあ、本当に細かく言えばキリがないですけれども。
例えば北村諒の顔面の良さをこんなに上手に利用した脚本がほかにあるか?とか…だって日本人なのにドイツ人の役で、初っ端から全く違和感ないとか、なかなかあり得ないですよね?そんなのテルマエロマエ出演組くらいじゃないですか。
他にも。
映像の、照明と組み合わせたドラマチックさ。
北村諒の美しい横顔のシルエットを、逆光に浮き上がらせる手法…その使いどころの見事なこと。
音楽が掻き立てる感情。
グラフィックの色使い。
ラストシーンに敢えて降らせたパステルカラーの風船が醸し出すノスタルジー…。
人間一人の、一生分の時間。
たった一人の俳優が再現した、彼の人生。

演劇でなければ、たぶん、こんなに自由に語れない。
ほかに語りたいことはいっぱいあるのに、このほかには何も言えないんです。胸がいっぱいすぎて。
完璧ではないし、色々アラ(時間や余裕があればもっと改善されたと思うような箇所)もたくさんあったし。
セリフ噛んだとか、文法的におかしいとか、照明と音響の切り替えがイマイチ合ってないとか。
カメラワークとか、なんで今アップ!?足下映さないの!?なんで!?って思うようなところもあったし。

でも。

演劇という「メディア」のエネルギーが、自由性が、その全てが、この作品には詰まってる。
要するに、この上なく、エモい。
魂が揺さぶられる。




私は凄く削られたけれど、あなたはどうだろうか。
自分ではない人の心情に、こんなにシンクロしてしまう私は、おかしいのだろうか。
誰もが、すべての普通の人々が、普通ではない人生を送る可能性がある。
今、この瞬間も、その危険性を孕んでいることを、恐ろしくて堪らないと感じる人は、いませんか。
なぜ、彼がたった「ひとり」の友人に「自分」の名前をつけたのか…どう、思いますか。
できたら、あなたと話したい。あなたの考えを聞かせてほしい。



…なんてね。
彼ならこのタイミングで、ベーッて舌を出すだろうけど。



それにしても。
西田さんはすごいな。
あの奇妙な「嘘だよ」を示す仕草を、何度も繰り返したあの仕草を、最後の最後に躊躇いなく持ってきた。
凄まじい観察眼。
削ってやるぞ、揺さぶってやるぞ…って、もう狙い通りです、はい、ありがとうございますドクロ

もう、芝居云々よりも、そっちでいっぱいで。
私は精神を削られまくって、もうズタボロです。
北村諒の、舞台と客席とそれ以外のどこかで叫びまくる声に、表情に、しぐさに感情を削られて、ズタボロです。
俳優はすごいな。
こんなとんでもない人生を生きて、また自分に戻ってこられるのか。




すごいなぁ。


演劇って、すごいなぁ。





これは、演劇でしか語れない「言葉」、だと。



思った、彼の「ひとりしばい」
















このシリーズ、本当に良かったです。
三回で終わりなんてもったいないと思ってたら、こんな嬉しい知らせ。





まだ観てないなら、ぜひ。
本当に。
絶望するくらい、愛おしくなるから。
演劇も人間も。

だから、話しましょう、いつか。
私と、あなたで。