おうち時間を支える一番重要な存在。
それは推し。
はい、どうも今晩は。
そういう訳で、改めまして私は、和田雅成さんを推しています。
突然の主張。
さて今夜は、軽々しい気持ちで推しの舞台を観に行ったつもりが、思いがけない超絶素敵体験をしてしまった件についてお話ししたいと思います。
時は西暦2019年10月9日(水)。
推しを生で観るためだけに、はるばる新宿の夜に降り立った私は、15分歩いて辿り着いたおなじみシアター・サンモールで、人生最高の名作に…出会った。
「ハリトビ」
作・演出は堤泰之さん。
ご存知の方が多いと思いますが、かの名作「煙が目にしみる」の作者でいらっしゃいます。もちろん、他にも人気作多数。
2.5次元に強い私と同世代の方なら、「ロックミュージカルBLEACH」や、「abc☆赤坂ボーイズキャバレー」の作演出の方と言った方が通りがいいかも。
あるいは、「泪橋ディンドンバンド」の作演出の方です…残念ながら、私は観てなかったのですが…。
もちろん有名な演出家であり脚本家であることは承知していましたけれども、当時新宿駅に降り立った私の頭の中は、もう和田雅成さんを生で観られるぜという興奮で一杯!
なにしろ、その前まで興行が打たれていた舞台「刀剣乱舞」慈伝 日日の葉よ散るらむのチケットに全落ちした直後だったので。
もう今回こそは!
絶対に同じ空間に行きたいと!
気合いを入れまくったら4公演分も取れまして。笑
10月9日は、その初日だったのです。ええ、公演もその日が初日。
つまり私は、非常に運良く、この名作「ハリトビ」の公演初日に観にいくことが出来たのでありました。
で、ね。
正直言いますと…あんまり期待してなかったんです…。
あの、ごめんなさいですけど本当に正直言うと。
まじで、今考えると、自分自身に「貴様何様だてめぇ!!」って殴りかかりたくなるような次第なのですが、当時は本当に、推しが見れればいいや〜くらいの気持ちだったんです。
というのも、これもファンの方にはぶん殴られる覚悟なんですけれど。。。
私、堤泰之さんの作品は「煙が目にしみる」しか観たことがなくて、しかも、プロがやった公演って観たことがないんです。
脚本そのものに非常に力がある作品なので、社会人劇団とかアマチュアの劇団がすごい頻度でやっている名作だということは分かってるんですが…ぶっちゃけ、当たったことがない。
すごくいい脚本なのに、公演を観て面白いと思ったことが一度もなかったんです。
なんというか…全体的に地味だし。(それが持ち味)
それに…いずみさん腹立つし。(たしか主人公の従姉妹の役…名前間違ってたらすみません。)
もし興味があれば、YouTubeで映像を公開している団体もあるので、観てみても良いかもしれません。なにしろ、本当に頻繁に公演されているので。
まぁ、そんなわけで。
席についてからも(忘れもしない、初日はかなり後方の上手よりの席でした。)まぁすぐトイレ行って、スマホ切って、パンフも買おうかな〜、どうしようかな〜、でも推しの写真いっぱい載ってるっぽいから買おうかなぁ、とか、考えていた。
いや、マジで殴りたい。
ってかタイムマシンがあったらあの日の自分マジでぶん殴ってますわ。
首根っこひっ捕まえて今買えすぐ買え財布出せって恫喝しますわ。
すごかった。
とにかく、ものすごかったんです。
物語の持つエネルギーが大きすぎて、終わったあと暫く立てませんでした。
ってか、本当は泣きすぎて腰が抜けたんですけど。笑
それで、ようやく立ち上がれるようになってからロビーですぐにパンフレットと、DVDの予約をしました。感動のあまり売り子のお姉さんに「素晴らしいお話でした、脚本があまりにも素敵でした」と話しかけてしまったのですが、めっちゃ微妙な顔されました。そりゃそうだ。苦笑
でも、本当に素敵すぎたんですよ…。
あんなに推しの…主演の和田雅成さんのことだけを思い描いて席に着いたのに。
終わったあとの脳内にはがっつりと、あの優しく、静かで、それでいて劇的な一夜を描いた物語が住み着いてしまっていたのでした。
先日待ちに待ったDVDが届き、このブログを各までに既に4回くらい観ているのですが、それでもあの初日の衝撃や感動を忘れることが出来ません。
何度観てもジンとくるし、勇気づけられるし、幸せな気持ちになる。
昨日のブログで、この時期だからこそただただ笑える舞台を、ということで松ステをおすすめしましたけれども、「ハリトビ」は別の意味で、やっぱりこういう時期に非常におすすめしたい作品です。
この物語、ストーリーは非常にシンプルです。
田舎町のロック喫茶のオーナーが亡くなり、ひっそりとしたその店に納骨帰りの息子(秋島光弘)がやってきます。彼は父親と一緒に暮らした記憶もなく、自由気ままに生きた父親には複雑な気持ちを抱いている。それで、店を残して欲しい常連客やアルバイト従業員の想いをよそに、この店は処分することに決めています。
ところが、嵐で電車が止まり地元に帰れなくなった彼は、やむを得ず父親が残したその店で、破天荒な常連客たちとともに一晩を明かすことになります。彼らと話をし、自分の中のわだかまる想いを徐々に解いていった息子は、翌日、この店をこのまままま残すことに決めて、自分の場所へと帰っていくのでした。
めでたしめでたし。
と、こういう感じ。
平田オリザ氏的に言えば、外からやってくる者=闖入者が主人公の秋島光弘(和田雅成)で、彼の気持ちの変化が、この作品の主題と言ったところでしょうか。
小説でもアニメでも漫画でも戯曲でも、おおよそ「物語」と言われるものにおいては、変化、というものが最も大きな鍵になります。
臆病だったけれど、勇敢に戦った、とか。
善良だったけれど、残忍を極める悪党になったとか。
そしてその時に良く使われる手段は、大きなアクシデントやトラブルです。
ガンダムシリーズなら戦争勃発とか。
シェイクスピアの「マクベス」なら、思いがけず王座が射程に入っちゃったとか。
誰かが死んだとか、殺されたとか、拉致されたとか…そういう物騒な大事件。
ドキドキしちゃいますよね。
今回は私の推し死なないかな…!?とか思っちゃいますよね。
大丈夫!
この物語では、そんなとんでもないことは起こりません。
むしろ、ほとんど何も起こりません。
(…まぁ、シンヤ・ムラカワ襲撃事件は、大きな事件ですが)
主人公の光弘の心境が変化する、特に大きなアクシデントは、何もないんです。
ただ淡々と、日が傾き、夕方から夜になり、夜が明けて朝が来る。
すると、いつの間にか光弘の心は変化している。
その、静かで劇的な変化こそが、一番の感動ポイントだと思うんです。
光弘が、稼ぎもない、住処もない、どうしようもないおっさんと話している。
話しているだけなのに、だんだん、頑なだった心が解けていく。その確かな様子が、セリフには全然ないのに、観客からはつぶさに見て取れる。
上京した同級生に屈託を抱えながら、地元で平凡な生活をしているおっさんに、漠然とした不安や劣等感をぶちまける。
そうすると、窘めつつも自分の経験を話してくれる。自分も同じだったと言ってくれる。たいてい皆同じだと言ってくれる…すると光弘の心が、また少し解けていく。
ここに出てくる人物たちは、本当に「ろくでもない」ヤツらなんです。
そして彼らが言うことの一つ一つは、本当に些細なことなんです。
でも、それがじんわりと光弘の心に染み込んで、彼を変えていく。
派手な要素は一つもなく、田舎街の、いつも通りの夜が更けていく。
なのに光弘の心は、静かに、けれども確実に、変わっていく。
そんな、優しく静かで劇的な一夜。
その穏やかさに、全俺が泣いた。
細かく、この場面がとか、このセリフがとか、語り出したらたくさんあるけれど。
とにかくこの舞台の魅力は、その圧倒的な穏やかさにあると、私は思うのです。
あー。またこんなに長くなっちゃった…。
今度改めて、この場面!とか、このセリフ!とか、語らせてください!!
そんなわけで、何かと心が荒れがちなこの世の中。
暦の上ではゴールデン・ウィークだけど、どこにも行かれない、そろそろお尻も腰も心も限界。。。
そうして何より、人のやることなすことが腹が立って仕方ない、なんて。
気持ちがささくれ立ってしまう、そんなご時世です。
でも。
そんな時期だからこそ、この作品をお薦めしたい。
優しく静かで、劇的な一夜を、皆さんも目撃しませんか。
本当に「ハリトビ」最高ですよ!!