いやー、凄かったですねこれは…あんまり凄すぎて言葉が出てこない。そして完全に胃がやられました。いてててて。
本日、つかこうへい作、中屋敷法仁演出「改竄・熱海殺人事件」を二本立てで観てきたわけですが、こちらはソワレで観てきた「モンテカルロ・イリュージョン」の感想です。
マチネの「ザ・ロンゲストスプリング」の感想は一つ前の記事で長々と書きました。ええ、それはもう長々と。
ヤバイですね。
この記事も長くなりそうですね。
明日も普通に仕事なのに、眠れそうにない。汗
「改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」
つかこうへいの代表作である「熱海殺人事件」には実に様々なバージョンがあるんですが、他のバージョンもここまで全然違う話になってるんですかね…?
いや、もうね、話が全然違うんですよね。笑
私はオーソドックスなやつの他には、ザ・ロンゲストスプリング、サイコパス、売春捜査官くらいしか知らなかったので、初っ端の時点ではマジで「???????」ってなってたんですが、そこが中屋敷演出の凄いところですよね。するするする〜っと引き込まれてしまうんですよこれが。まるではなからこの話知ってたような気になるんですよ。不思議。
舞台美術自体は「ザ・ロンゲストスプリング」と変わらずですが、とにかく色彩が全然違う。めちゃくちゃカラフル。
まずは役者陣の衣装。全体的にピンク色。中でも伝兵衛と金太郎の衣装の鮮やかなショッキングピンクはまさに衝撃の一言。笑
そしてこの作品、びっくりするほど役者が歌うので(観てない人には何を言ってるのかわからないと思うが本当にめちゃくちゃ歌う)照明も派手。とってもカラフル。音響も言うまでもなく。
あと、実況の演出が入り込むので、役者がマイク使って舞台上で喋る…というか「がなる」んですよね。だから音量の調整相当骨が折れると思う…プロってすごいですね、ほんと。
これも私の中ではまさに「ザ・中屋敷演出」という感じで、踊るわ歌うわ殴るわ蹴るわ、長台詞は多いわ速いわ唾は飛びまくるわ汗は散りまくるわ(これは台本のせい)すごい!とにかくすごい!すごい以外に表す言葉がない!!
それに、なんか、キャラクターがみんなかわいそうでよ…伝兵衛が何したっていうんだよ…アイ子がさ…金ちゃんがさ…何したっていうんだよ…水野だって速水(弟)だってさ…頑張って生きてるじゃん…なんなんだよ!なんでみんなこんなに悲しいんだよ!悲しすぎるじゃねぇかよ…!!!!
ってか立花と速水(兄)、おめーらは許さんぞ。
さて、そんなわけで役者さんたち。
まずはもちろん主役の木村伝兵衛役の多和田任益さん。この人本当に凄いな!?本当に凄かったよ特に今日は!!
いや、彼は本当に若い時にデビューしたじゃないですか。観てましたよ手塚部長。
それまで結構なお兄さん達が演じてきた、あの中学生なのにベテランサラリーマンの風格を醸し出すテニス部部長手塚国光を、な、な、な、な、なんとマジモンの17歳がやるんだって!?ってざわついたのよく覚えてますもん。あれ、17歳だったっけ、16歳?とにかくびっくりしたもんですよ。
背が高くて、素晴らしいスタイルで、もちろん顔立ちだってとても美しく、その頃からただもんじゃない若者出てきたよコレって誰もが思ってたに違いないけど。
こんなに凄くなるだなんて聞いてなかったっす。
実は多和田さんのお芝居は何度も観たことがあって、若いのに達者だなぁって思ってたんですよね。
特に去年の4月に「PSYCHO-PASS V.V.」って作品を観に行って、それが近未来を舞台にした刑事物で、凄く面白かったんですが、多和田さんもそれに出ていて。
とにかく凄まじいスタイルの良さに圧倒されたんですよ。それに身体もきくからアクションも上手で。考えてみれば芝居も上手だった。
でもこんなに何もかも上手いなんて知らなかったわ。
今回の「モンテカルロ・イリュージョン」は、マジでおかしいくらい歌うんですが、とにかくまず多和田さん歌がうまい。抜群にうまい。
そしてダンスがうまい。正直気持ち悪いくらいキレッキレ。笑
役柄は何というか、属性盛り込みすぎて何が何だか分からないほどの難役で、なのにそれを嬉々として演じている。なんの違和感も感じさせずに、まるで自分が伝兵衛そのものであるように息してるんですよ。信じられます???
だってこのバージョンの伝兵衛って、「バイセクシャルで」「ウリセンで一晩に四人も五人も客とって」「稼いだ金を男に貢いで」「裏切られて」「殺されそうになり」「挙げ句に自分が死刑になる」「元日本代表の棒高跳び選手の」「東京警視庁捜査一課の伝説的部長刑事」っていう役なんですよ?????何言ってるか分かんないでしょ?私もわからん。
とにかく今日の私の一言は、
多和田は凄い。
これに尽きます。
お次は紅一点、水野朋子役の兒玉遥さん。元アイドルらしい華奢な体つきとキュートなルックスで、これはもう舞台にいるだけで価値ありなタイプでしょ。ふんっ!
って思ってたんですけどね。いや、別に悋気を起こしたわけじゃないけど!ふんっ!!
いやしかしこれが、また、凄かったんですよ。
はじめはね、やっぱりどうしても声が小さいし、ら行の滑舌がめちゃくちゃ甘いし、全体的に芝居も拙い感じで、「うーん、まだ二度目の舞台じゃしょうがないよね」って感じだったんですよ。
ところがどっこい、アイ子だよ。
やっぱりこの芝居の女のミソはアイ子なんですね。私はよーくわかりました。相変わらずアイ子がブスでデブってのは、この構成じゃ腑に落ちねぇよとは思ったけれどもね。それは台本の問題だから。(つかこうへいのせいです)
つまり、アイ子は、不条理や悲哀の象徴なんだね。あの作品の中で。
だから、あのアイ子として生きてる瞬間、どの女優もアイ子になるんだわ、きっと。哀しくて可哀想で、それでもまだ負けられなくて、あるいは気がおかしくなって、帰りたいけど帰れなくって…そういうものになっちゃうんだろうね。女じゃなくて、人間ですらなくて、哀しみそのものにね、なるんだろうね。
と、そんなことを感じさせるような、いい芝居でした、あの長台詞。
アイ子、砲丸投げることに、意味はきっとないよ。悲しいねって、思ったら泣けました、凄く。
語り始めると止まらない。次に行こう。君だ速水弟よ。
速水健作役の菊池修司さん。彼も良かった。本当によかった。まずとにかく声がよく出ていて、体がよく効く。これだけでもつか作品の板に乗るには充分な役者さんだと思うんですよ。(偉そうにすんません)
その上、彼上手くないですか?普通に、え、ベテランですか?って感じでした私には。とても自然で、かつ、つか作品にマッチする不自然さも出せて。すごくない??
またこの方も、写真より動いてる方が1000倍いいですね。荒井さんにも感じたけれど。その場で息している方が魅力的に見える俳優さんっていうのは、いいですよ、舞台ですごく映えるもの。
ただ私は、途中彼がドレスを着て出てきた時の、胸筋の凄さに目を引かれてしまいました、
なんつーか、筋肉で谷間が出来てたっていうか…すごい体つきだなって…
ごめんなさい。
さ、そして最後に!この方!
大山金太郎役の鳥越裕貴さん!あなたはこの作品をやるために生まれていらしたのですか!?
いや、興奮しすぎましたけど、本当にそんな感じでしたよ、もう、凄い。
発声といい、芝居といい、動きといい、まさにつかイズムを体現する者という感じで(だから偉そうなんじゃ!)これぞ「熱海殺人事件」だ!!っていう要素を全部背負って出てきたような、そんな感じがしました。
「熱海殺人事件」は、基本的に大山金太郎が背負ってるものって、ものすごく重いじゃないですか。貧乏で、努力して、でも虐げられて這い上がれなくて、すごく優しいからこそ、同郷の幼なじみであるアイ子に心をかけて、結局人としての一線を超えてしまう。なんて悲しい、残酷な運命か。
今回のバージョンでもそれは変わりなく、ただ、伝兵衛も悲しくて残酷な運命をわかりやすく背負っている分、金ちゃんの立ち位置が難しくなってるのよね。
それを、鳥越さん、実にうまく演じていたなと思うんです。
努力して、報われなくて、やけになってとんでもないことをして、人にとんでもない迷惑をかけて。いや、人にって言うんじゃ済まないような、世界規模にとんでもない迷惑。
でも、それを「俺が全部悪い」とは思い切れない人間臭さ。そこが、その自分勝手に見えるところが、このバージョンの金ちゃんを、ただの「とことん気の毒な男」ではなくしている気がする。
アイ子のためと言いながら、本当は傷口を舐め合う人が欲しかっただけなんじゃないのかって、なんなとなく私はそう感じさせられた。そこが、いいなって思った。
とにかく。
今日の、というかこの作品の金ちゃんは、もうなんか、鳥越裕貴さんにしかできないんだろうなって、そんなふうに思ったわけでした。
私、今日すごく久しぶりに「熱海殺人事件」を観て思ったんだけど、このお話、ちゃんとストーリーありましたね。笑
高校生の時には分からなかった、この作品の表現しようとしていたことが、今日ようやく伝わりました。しかも違うバージョンで。
モンテカルロ・イリュージョンは、(延期になってしまったけれど)オリンピックイヤーのこの年だったからこそ、胸に迫ってくるものがあったようにも思います。
スポーツってなんなんだ、メダルってなんだ、勝つってなんだ、負けるってなんだ。生きるってなんだ。死ぬってなんだ。人間ってなんなんだ…そういう、答えのない問い。その詰め合わせ。
原型に近い「ザ・ロンゲストスプリング」と、全く異なる展開をしてみせた「モンテカルロ・イリュージョン」。
どちらの舞台も、生で観なければ伝わってこない、五感全てに働きかける、あるいは脳を芯から痺れさせる、とんでもない作品だったことは間違いありません。
というわけで、公演は30日まで!と打ちかけていたところで、土日公演の中止の知らせを目にしました。
新型コロナウイルス感染拡大防止のために、土日の公演は全て払い戻し、27日と30日は予定通りに公演するが、当日券は数を制限または発売を停止するとのこと。
これに伴って「モンテカルロ・イリュージョン」は、今日のソワレをもって東京千秋楽を迎えたとのことです。
千秋楽、おめでとうございました。
九州公演が予定通り行われることを願うとともに、素晴らしい舞台を最後のタイミングで観られたことを、心からありがたく、嬉しく思います。
舞台は生き物。
野田秀樹さんの言う通り、演劇は観客がいなければ決して完成するものではありません。
でも、この舞台を観て思ったのは、その役者たちでなくては完成しない舞台も確かにある、ということ。
この舞台を作り上げてくれた全ての人々が、そして私のように、この舞台を幸運にも観ることができた全ての人たちが安全でありますように。
またもや長い文章になってしまいましたが、最後は水野朋子の台詞を借りて。
どうぞ、お健やかに。