「ああ。崖に向かう俺の頭にも同じものが入ってきたんだ。可哀想な子だったんだね」
「……はい」
あたしは昨日の崖に立った。
下を見ると荒れる海で、身がすくむ。
「ひかり……来世も親友でいてね。さようなら……」
遠い地平線を見つめて、ひかりにさよならを言う。
ひかりがあたしに見せた霊体験は怖かった。けれど、ひかりの受けた傷に比べたら、あんなこと大したことはない。
いきさつを知られて良かったと思う。
「本当に君たちは仲が良い友達だったんだね」
「はい! そんな言葉じゃ言い表せられないくらいに」
これからもひかりを忘れない。
海を見ていたあたしは振り返り、拓磨さんを見た。
悲しみの笑みを向けた時、地面にきらりと光る物を見つけた。
しゃがんで光った物を指先でつまむ。
それはきれいなピンク色のローズクォーツの一粒の石。
「これは……ひかりのブレスレットの……」
どす黒い赤さを帯びていたブレスレットは、一番最初に見た時の色に戻っていた。
ひかりが小杉を好きと言った時のままの穢れのない色に。
「そうらしいね。これを見ても浄化されたのだとわかるよ」
あたしはそれをぎゅっと握りしめて胸にあてた。
「また会おうね。ひかり」
くるっと崖の方を向くと、握りしめていた一粒のローズクォーツを海に向かって投げた。
宙を舞う天然石がキラキラ光る。
海に落ちていくのを瞬きしないで見ていた。
「ありがとう。亜美ちゃん」
ひかりの声が聞こえた気がした。
END
