河川敷
翌朝、パパがテーブルで読んでいる新聞を「ちょっと見せて!」と横取りする。
「あ、おいおい」
あたしに新聞を取られても怒らないパパはやれやれとコーヒーを飲む。
床の上に新聞を開き、見ていくと探している記事が見当たらない。
少年の事故……事故……ない……。
あれは夢だったのかな……。
「亜美、なにを探しているんだ?」
新聞を返してほしいパパはあたしの背後から覗き込んでいる。
「暴走族の事故の記事なんだけど」
「いつ頃だ?」
「えーっと……たしか夜中の1時――!」
『少年が見るも無残な死に方をした現場です!』
あたしの耳にテレビからアナウンサーの声が聞こえてきた。
ぎくりと肩が跳ね、テレビへ振り返る。
『今日の深夜1時頃、○○市立北高校の男子生徒がバイクに乗っている最中、首をはねて死亡しました。原因は何者かによって電柱と電柱に張られた一本のピアノ線のようです!』
「おい、北高校って言ったら隣町の生徒じゃないか」
あたしがテレビの前でぼう然と突っ立っていると、パパがママに言っている。
「ほんと、嫌な事件ね。場所は江戸川の河川敷だって。そんな真夜中にバイクだなんて、不良なんじゃないの?」
ママも近くで起こった事件とあって、キッチンの中から出てきた。
あれは夢じゃなかったんだ……。
あの少年の顔を思い出して背筋に冷たいものが走る。
思わず両腕を擦っていると、パパが新聞を持って席についた。
「亜美が探していた記事はこの事なのか?」
「えっ!? ち、違うよ。いくらなんでも夜中あったばかりの事件を探すわけないでしょ?」
「そりゃそうだな」
パパは笑うと、新聞を読み始めた。
「亜美、席について、早く食べちゃいなさい。麻美はまだ寝ているの?」
あたしの席のランチョンマットにオレンジジュースとトーストが置かれる。
「うん」
食べ物を目の前にしても心ここにあらずで、どうしてあの少年をひかりは殺したのか考えていた。
「亜美? どうしたの? 熱でもあるんじゃないの?」
不意にあたしの額にママの手が触れる。
「熱なんてないよ」
「そうねぇ。なさそうだわ。ぼんやりしているから、部活で疲れてるんじゃないの?」
「そんなことないよ。ちょっと考え事をしていたの」
ぶっきらぼうに言うと、トーストにマーガリンとジャムを塗った。
