「亜美、そんなところでなにしてるの?」
「きゃっ!」
考え事に耽っていたあたしは、背後から突然声をかけられて声を上げた。
両腰に手を置いた玲奈だった。
「なんでそんなに驚くのよ」
「えっ? ううん。ひとりだと思っていたから……」
「変な亜美。非常階段を使ってどこへ行ってたの?」
「ちょっとね」
怪訝そうな玲奈の顔だけど、あたしはなんでもないように装い歩き始めた。
自分に起こる不可思議な出来事を、まだ玲奈に話しが出来る状態ではなかった。
結局、ホームルームでかっちゃんは誰が事故に合ったとは言わなかった。
あれは夢だったんだ。そう思いたい。だけど、あたしの肩に指の形が血ではっきり付いていた。
それに、いつの間にブレスレットが左手首にあったし。
考えると全身が重くなってだるくなる。
「亜美、行こう」
玲奈が立ち上がり、あたしに言う。
「行こうって?」
みんなもガタガタと椅子を引いて立ちあがり教室を出て行く。
「もう、亜美ったら大丈夫? 終業式で体育館に移動でしょ」
「あ……」
あたしは慌てて立ち上がる。
「最近の亜美、変だね?」
「そうかな。行こう! みんなに置いて行かれちゃう」
あたしは勘ぐるような瞳を向ける玲奈の腕に、腕を強引に絡めて引っ張った。
体育館はすべての窓が全開していたけれど、生徒の熱気と、外の暑さでムワッと暑い。
男子生徒のワイシャツの背中に汗染みが作られていく。
あたしもこめかみに伝う汗をタオル地のハンカチでぬぐう。
「体育館、クーラーあるんだからつければいいのにね」
「そうそう。短い時間なんだから、電気代ケチらなくてもいいのに」
みんなが暑さに文句を言っている。
