『君がいれば・・・』act.4 | HAPPY DAY

HAPPY DAY

☆ベリーズ文庫(現代・ラブファンタジー・異世界レーベル)マカロン文庫・コミックベリーズ・マーマレード文庫・マーマレードコミックス・LUNA文庫・夢中文庫・ネット文庫星の砂にて執筆させていただいています。

ホテルの裏口、それも搬入の出入り口から出たふたりは記者やファンに見つからずにタクシーを拾った。

ジフンもシンほどの身長はないが、背の高いふたりが歩くとかなり目立つ。

シンの目的地は先ほど行ったデパートの紳士服売り場。

今は5時前。

デパートに早番遅番があるとするならば、彼女の仕事はもうすぐ終わるのではいかとシンは見当をつけたのだ。

なぜか彼女が気になった。

自分を知らない瀬奈は新鮮だった。

デパートの前にタクシーが到着すると、シンはジフンに「じゃあな」と言ってあっという間に人ごみの中へ消えた。

(まったく……何事も起こらなければ良いが……しかし……おじい様は無茶を言う。まだまだシンは身を固めそうもないのに。それに、命令されたから「はい、わかりました」って言う奴ではない)

シンが消えた方向をもう一度視線をやって、ジフンは運転手にホテルに戻るように言ったのだった。

*****

シンはちょうど開いたエレベーターに乗った。

乗っている女性客に、じろじろ見られないうちに頭を下げてやり過ごす。

エレベーターは4階の紳士服売り場に止まった。

シンは降りると、瀬奈の姿を求めて歩き出した。

さっきはとっさに入った場所だったので、どこに入ったわからない。

(たしか……スーツ売り場だ。さっきもそうだったが、客より店員が多いな)

通路を歩いているとあちこちから「いらしゃいませ」のオンパレード。

顔が見えないようにうつむき加減で歩いていると、見本のワイシャツを丁寧にたたんでいる瀬奈の姿が目に入った。

(彼女だ)


辺りは瀬奈しかおらず、シンはおもむろに近づく。

瀬奈の後ろに立ったシンは口を開いた。

「セナ」

「え?」

突然名前を呼ばれた瀬奈はビクッと身体を震わせてから振り向いた。

「あっ!」

(帰ったはずのあの彼が目の前にいる……)

彼がいなくなった後、ずーっと気になっていた。

(やっぱり夢だったのかもと……)

今目の前にいる彼も、考えすぎて白昼夢でも見ているのかと思ったほどだ。

「セナ」

もう一度名前を呼ばれて「は、はい」ってどもって返事をしていた。

「ど、どうして……?」

瀬奈が見上げてポカンとした表情になっている。

「どうしても会いたかったんだ」

(えっ……? 会ったばかりの人なのに……なんで……?)

瀬奈の反応に、彼はキレイな顔で微笑んでいる。

(こんな美形の彼に会いたかったと言われて正直嬉しいけど……)

(なんで……? どうして?)

「仕事は何時に終わる?」

シンは腕を伸ばして腕時計を見た。

「え……っと……18時……」

聞かれて素直に答えてしまっていた。

「OK。従業員通用門で待ってるよ」

「え? どうして待ってるの?」

22歳まで彼氏が出来たことがなく奥手な瀬奈はどうしてなのかわからなかった。

瀬奈の言葉にますます彼は笑顔になる。

「デートしたいからさ」

「デート……?」

小首を傾げてからハッとして頭をぶんぶん振った。

(なんでこの人とデートなの?)

「ダメ、ダメです! 帰らなきゃ」

瀬奈は心の中で残念と思いながら断る。

「セナ、お願いだ」

シンの茶色の瞳が瀬奈を見つめる。

彼の瞳に見つめられてガードが緩む。拒否できなかった。

(拒否できる女性がいるのだろうか)

瀬奈はコクッと頭を縦に動かしていた。

「良かった。じゃあ、後で」

そう言って再び顔を隠すようにして彼は行ってしまった。

(どうして顔を隠すんだろう……? カッコ良いのに……)