モデル風の女の子のネイルを仕上げて、琴美は受付まで送り出した。
施術を待つソファーに座る女性がいつもより多い事に気づく。
ゴシップで売り上げが落ちるどころかますます忙しくなっているじゃないの。
琴美は待っている客に誰ともなく会釈しながらサロンへ戻った。
目の奥に痛みを感じて両方のこめかみに指を置きマッサージする。
あきらが毎日のようにアパートに帰ってくるのだ。
仕事に出かけずに部屋でだらだらと過ごしている。
二股をかけていた彼女とは別れたのか?
最近はどうでも良いのだが、自分に手を出そうともしない。
早く出て行ってくれれば良いのに。
そんな事を考えたその日、あきらから驚くような言葉を聞いた。
* * * * * *
「文化祭には遼平さんを呼ぶんだ~」
香澄がボードにペンキをペタペタ塗りながら隣の杏梨に嬉しそうな笑みを向けた。
「杏梨は?あっ・・・・・・雪哉さんを呼べるわけないか・・・・・・」
手を止めて杏梨の顔を見る顔は申し訳なさそうだ。
「うん 仕方ないよ 来たら大騒ぎになっちゃう」
「文化祭は即終了だね 遼平さんもカリスマ美容師で有名になっちゃったらどうしよう あ~ それは嫌だよ嫌だ 会う時間も少なくなっちゃうし、彼がお客様に笑いかけるのも嫌っ!」
なんとも話が突拍子もない方向へ向かっていく。
「香澄ちゃん・・・・・・」
自分にも経験がある。
雪哉がお客様に笑いかけたり、話をするとすごく嫌だった。
今も嫌だが仕事だから仕方ない・・・・・・だから考えない事にしている。
家に帰ってくれば杏梨だけの雪哉だから。
付き合い始めたばかりの香澄には無理もないと思う。
「遼平さんなら大丈夫だよ」
根拠はないけれど香澄を励ましたかった杏梨だった。
続く