香澄が近づいてきた杏梨に抱き付いた。
「はぐれちゃったから心配したんだよ?」
「ごめんね ちょっと知っている人がいたみたいだったから」
そういうが浮かない顔の杏梨だ。
何かあったのだろうか?
「言ってくれないと心配するだろう?」
雪哉がたしなめる。
「ごめんなさい」
3人に頭を下げて謝った。
「お腹空いたな~ 雪哉さん、どこか食べに行きましょうよ」
遼平がその場の雰囲気を明るくさせようと言った。
「そうだね 行こうか」
雪哉は杏梨の手を握ると歩き始めた。
* * * * * *
「香澄ちゃん、お寿司大好きだから喜んでたね?」
香澄と遼平のカップルと別れてタクシーに乗り込むと杏梨は口を開いた。
「それは良かった」
雪哉は微笑んだ。
雪哉はなじみの寿司屋に3人を連れて行った。
香澄は普段行く回転寿司屋でなくて、カウンターに座り目の前に板前さんがいて握ってくれる寿司屋に案内してもらい感激していた。
極上のネタでほっぺたがとろける位おいしいと絶賛し続けていた。
「杏梨、さっき知り合いに似ていたって誰のこと?」
あの時は聞かれなかったけれど、2人になったら聞かれると思っていた。
「あのね?・・・・・・琴美さんの彼氏・・・・・・」
「なんだって!?」
どうして追いかけるなんてバカな事をしたんだ!?
タクシーの中にいる雪哉は叱り飛ばしたいのを堪えた。
「でも見失っちゃったから・・・・・・」
「そういう問題じゃない」
雪哉の冷たい声がした。
ゆきちゃん・・・・・・。
雪哉を怒らせてしまい、杏梨はシュンとうつむいた。
タクシーを降りて部屋に入るまで雪哉はずっと黙り込んでいて杏梨はとぼとぼと付いて行った。
玄関の鍵を開けてドアを開くと先に杏梨に入るようドアを押さえている。
杏梨は黙って中へ入るとそのままリビングへ行った。
雪哉がテーブルの上に鍵の束を置いた。
その置き方はいつもより乱雑だ。
「ゆきちゃん、勝手な事をしてごめんなさい」
「そこに座って」
テーブルのイスを示されて腰を下ろす。
「もしも追いかけた奴がその男で杏梨の顔を覚えていたらどうするんだ?」
「・・・・・・」
「杏梨?」
「顔を確かめたかっただけなの・・・・・・」
「そんな事をしてもどうにもならないだろう?」
雪哉は軽く首を横に振り、ため息を吐く。
「それは・・・そうだけど・・・・・・」
「危ない事には首を突っ込まないと約束してくれるね?」
「・・・・・・はい」
雪哉の怒りを納めるには返事をするしかなかった。
続く