しばらくの沈黙の後、雪哉は決心した。
杏梨の身に何か起こってからでは遅いんだ。
酷なようだけど、今のうちに警戒心を持ってもらわないければ・・・・・・。
雪哉の言葉が以外だったようで驚いた顔で見ている。
「ショックを受けるって・・・・・・?どうして・・・・・・?」
雪哉は立ち上がるとソファーを移動して杏梨の隣に座った。
自由になる左手を両手で囲む。
「ゆきちゃん・・・・・・?」
どうしてゆきちゃんはこんなに辛い顔をしているの?
雪哉の言葉に戸惑う杏梨だった。
「・・・・・・彼女はあの事件の姉なんだ」
「あの事件・・・・って・・・・・!!!!」
最初は分からなかったが、すぐに雪哉の言う事件を把握した。
杏梨は雪哉の手から左手を抜くと口元に持っていく。
「落ち着くんだ」
一気に顔が青ざめてガタガタ震えだす。
雪哉は杏梨の後頭部に手を置くと引き寄せ抱きしめた。
「落ち着いて」
「・・・・っ!・・・・・・ど・・・どう・・・して・・・・・・?」
琴美さんがあの男のお姉さん?
髪を大きな手でゆっくり撫でられ落ち着かせようとしてくれているが頭の中が、パニック状態で今にも叫びだしたい。
「そんな・・・・・・」
あんなに優しくしてくれたのに・・・・・琴美さんが・・・お姉さん・・・・・・?
「ぅ・・・うそだよっ!名前がっ!違う!」
「事件後、両親が離婚したんだ」
「記憶が無くなった時、彼女と昼食を食べただろう?階段から落ちた時も彼女はいた 本当に彼女のせいなのかわからないが自殺した弟の復讐を企んでいるかもしれない だから彼女にあって欲しくないんだ」
琴美さん・・・本当に・・・そうなの?
大きな瞳から涙がポロポロ溢れ出し雪哉の肩を濡らしていく。
「こんな事を話したらまた元の杏梨に戻ってしまいそうで言い出せなかった」
しゃくりあげるような泣き方に雪哉の胸がつまる。
「すまない 忘れたい記憶なのに・・・・・・」
何を言っても今の杏梨は泣きじゃくるだけで聞いていなかった。
小さな子供のように泣きじゃくった杏梨は泣きつかれて腕の中で眠ってしまった。
汗ばんだ額に口付けするとギプスに気をつけて抱き上げた。
寝室のベッドに静かに横たえる。
涙で顔が赤くなっている。
寝室を出ると濡らしたタオルを取りに洗面所へ向かった。
続く