「じゃあ、行って来るよ」
玄関に見送りに来たわたしの額にゆきちゃんはキスを落とす。
「うん いってらっしゃい」
にこっと笑って左手を軽く振る。
「あっ、そうだ」
行きかけた雪哉が立ち止りふり返る。
「今日は遅くなるよ 店の暑気払いなんだ」
暑気払いにしては遅いくらいだが、店が忙しかった為に今日になったのだ。
「わかった♪」
「あー 食事はどうしようか 出前でも頼む?」
「そんな事まで心配しなくても大丈夫だよ?香澄ちゃん、午後に来てくれるし」
「そう、じゃあ香澄ちゃんによろしく」
そう言って出て行った。
香澄ちゃんがネイルサロンに行く事、言い忘れちゃった・・・・・・。
忙しいゆきちゃんだから会う事はないと思うけど。
* * * * * *
午後遅くに香澄がやって来た。
得意のお好み焼きを作ってくれるらしくスーパーの大きなビニール袋を抱えてる。
「うわー たくさん買ってきたね」
キッチンで買ってきたものを出すと食材の多さに目を真ん丸くする。
「とびっきり美味しいお好み焼き作ってあげるからね♪」
お好み焼きも気になる杏梨だが、もっと気になる事があってそわそわした感じだ。
香澄が冷蔵庫に食材をしまうのを後ろでうろうろしている。
杏梨は飲み物でも入れようとグラスを出そうとした。
グラスの前にカップがある。
「あっ!」
カップをどかそうと持った時、左手からするっと滑り落ちて床に落ちた。
ゴトッ!
「だ、だいじょうーぶ!?」
グラスだったら割れていた所だが、カップだったので割れるのはまぬがれた。
「いいよ、私がやるから 杏梨は向こうで座っていなさい」
カップを拾った香澄が言う。
邪魔にならないように杏梨はリビングのソファーに座った。
右手のギプスをじっと見つめる。
早く取れないかな・・・・・・。
「はい お待たせ~」
杏梨の前にコーラの入ったカップを置く。
「カップ?」
なんでだろうと首をかしげ香澄を見る。
「だってグラスだと落とした時に大変でしょ?」
「あ、うん」
「さっきから気になっているのはこれの事でしょ?」
きれいにネイルされた手をひらひらさせる。
「腕は確かだよね」
「腕はって事は何かあったの?」
気になる言い方だ。
「あったと言うか、あそこで馴染んでないみたいな感じだった 私には優しくしてくれたよ?話も楽しかった」
「うん 優しいよね でも馴染んでいないみたいって?」
「やっぱりスタッフと問題があるみたい やってくれている最中、電話が鳴ったの 手が離せなくて電話に出れないのに他のスタッフが取ってくれなかったみたい あとで近くを通ったスタッフの所にわざわざ行って「電話に出て」って言ったみたい そうしたら言い合いになって男性が来て仲裁してた」
「そうなんだ・・・・・・」
「ヘアーサロンのスタッフにのけ者にされているみたいだから、防衛線を張らざるおえないのかなって」
香澄の言葉に杏梨は頷いた。
ヘアーサロンのスタッフと仲良くなれれば良いのに・・・・・・。
続く