「Love Step」(219) | HAPPY DAY

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永遠とも思われる時間が過ぎたと思われたのだが、実際に待っていた時間は30分。


その30分間、雪哉は生きた心地がしなかった。



どうして何も話してくれないんだ?



「雪哉さん、杏梨ちゃんはきっと大丈夫です」


長椅子に座り両手を組み、うなだれた雪哉にめぐみが声をかける。


「どうして歩道橋の階段から落ちたんだ・・・・・・」


「・・・・・たぶん・・・高いヒールのせいだと思います」


そう言ったのは先ほどまで泣きじゃくっていた琴美だ。


「ヒール?」


「はい オーナーに喜んでもらいたいとドレスアップしていたんです」


確かに最近まで着る物に無頓着だった杏梨は、ヒールなどの高い履物に慣れていない。



救急治療室のドアが開いた。


「ご家族の方、先生からお話があります」


先ほどの看護師がドアから顔を出して言った。




雪哉は救急治療室の中へ入った。


簡素な机を前に白衣を着た若い医師が座っていた。


白いカーテンが引かれていて杏梨はその向こうにいるらしい。


頭部の裂傷で出血したが、MRI検査で以上は見られなかった事、反射的に右手をついた時の前腕部分の骨折、それに全身打撲で体中にあざが出来ている旨を医師に説明された。


思ったより酷い怪我でなく、雪哉の肩から力が抜けた。


「ですが、頭部の打撲は数日様子を見なくてはなりません」


今は以上は見られないが、数日間は安心できないと言う事だ。


「わかりました ありがとうございました」


雪哉がイスから立ち上がり頭を下げた時、カーテンの向こうから杏梨の声がした。


「ゆき・・・ちゃん?」


カーテンが開かれた。


簡易ベッドに寝かされた杏梨はこちらを見ていた。


「杏梨・・・・・・」


頭に包帯は巻かれ、右手はギプスで固定され、痛々しかった。


ケガをしていない左手を雪哉は握った。


「ゆきちゃん、ごめんなさい・・・・・・」


「何を謝るんだ!」


「だって・・・・・・」


杏梨の瞳が潤んできた。


「患者を興奮させないで下さい これから病室に移します 1階の受付で入院手続きをお願いします」


看護師に言われ雪哉は杏梨の頬に触れ「何も心配しなくて良いんだ、手続きをしてくるよ」と言って出て行った。




救急治療室を出るとめぐみと琴美が近づいてきた。


「杏梨ちゃんの容態は!?」


めぐみが聞く。


「検査では今の所、頭部の異常は見られなかったよ 右手の骨折と全身打撲だけですんだ 入院の手続きをしてくる 2人とももう帰って良いよ 心配をかけたね、ありがとう」


めぐみはホッと安堵した。


安堵しなかったのは琴美だ。



悪運の強い子だこと。



「私は杏梨ちゃんに付いていてあげたいんです 女手があった方が良いと思いますし、いいですか?」と、琴美。


「今日はもう帰ったほうが良い 姉に来てもらうので心配はいりません ありがとうございました」


めぐみと琴美は帰って行った。




続く



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