腕の中の杏梨を抱きしめると目蓋がピクリと動く。
すぐにでもキスで起こしたくなる。
澄んだ大きな瞳で見つめて欲しい。
大人になった杏梨に溺れそうだ。
いや、溺れそうだではなく、すでに溺れている。
薄い上掛けの下で杏梨が擦り寄ってきた。
部屋の中が涼しいのか、それとも俺の存在を無意識に求めて擦り寄ってくれているのか。
後者であるといい。
室内の温度を1℃上げると、杏梨の額にキスを落として目を閉じた。
杏梨は夢を見ていた。
事件直後は毎日見ていた最悪な夢。
文化祭の準備を手伝ったあの日・・・。
杏梨は雪哉に早く会いたくて公園の中に入った。
公園に入れば近道になるからだ。
夢の中で杏梨はやっぱり公園の中に入らなければ良かったと思いながら歩いていた。
外灯は所々しか点いていなく、6時を過ぎたばかりですでに辺りは真っ暗。
杏梨は早歩きで公園を抜けようとしていた。
いつもの夢のように後ろから足音が聞こえる。
振り返っても誰もいない。
でも、絶対にいる。
逃げなきゃ。
夢の中で杏梨は恐怖で怯えていた。
杏梨はあの少年から逃げようと走り出した。
今日の夢はいつもと違う。
いつもは走れなくてあの少年に捕まってしまうのに、今日はなぜか早く走れた。
大丈夫、逃げれる。
「ゆきちゃん!」
少年に捕まらないように走る杏梨は雪哉の名前を呼んだ。
次の瞬間、辺りはぱーっと明るくなり雪哉が両手を広げて待っていてくれた。
「大丈夫だよ」
優しい笑みを浮かべている。
杏梨は雪哉の腕の中に飛び込むと、ぎゅっと抱きしめられた。
夢の中で幸せな気持ちになった時、杏梨は目覚めた。
隣には羨ましいくらいの長い睫を持った雪哉が眠っている。
2人は向かい合って抱き合うような体勢だった。
もちろん、雪哉の腕は自分のものだと言うように杏梨の腰の上にある。
杏梨の顔に幸せそうな笑みが浮かぶ。
「朝からHな事でも考えているの?」
雪哉だ。
「ゆ、ゆきちゃん!起きていたのっ?」
「杏梨が目覚める前からね」
「なんだ・・・」
自分の方が早かったのではないと、ちょっとがっかりの杏梨だ。
「夢見が悪かった?」
心配そうな顔で見つめる。
「え?ううん 幸せな夢を見たよ」
もう大丈夫、あの夢になんか負けない。
絶対に負けない気がする。
「幸せな夢で良かった」
眠りながら眉をしかめていたので、雪哉は前に良く見た夢を見たのだろうかと思ったのだ。
辛くないように起こそうと思った時、普通に戻った。
「うん、ゆきちゃんが守ってくれたから」
雪哉は片方の肘をシーツに付き、上半身だけ起こすと杏梨の額に口づけを落とす。
杏梨は雪哉の上半身に何も身につけていないのを目にすると、途端に恥ずかしくなった。
続く
今日の夜にも更新します
