峻が無表情に言う。
「悪かった、迷惑をかけたね 杏梨、行こう」
大事な物を抱えるようにして杏梨の腰に手が置かれた。
「峻くんっ!ありがとう」
雪哉に保護される様に車に向かう中、杏梨は急いで振り向くと言った。
空いている手で車のリモコンを操作する。
ピッっと小さな音で、赤い車のドアロックが解除された。
助手席のドアを開けて杏梨を促す。
杏梨は一度不安そうな顔を雪哉に向けたが、優しい眼差しを見ると席に座った。
杏梨を座らせた雪哉は車の前を回り運転席に着いた。
「ゆきちゃん・・・」
「ん?」
「酷い事言ってごめんなさい・・・」
「杏梨に謝られると辛いな すべては俺のせいなのに」
「・・・」
「疲れただろう、目を閉じて休むんだよ」
雪哉は顔を近づけると杏梨の唇に軽いキスを落とした。
そしてエンジンをかけるとサイドブレーキを解除し発進させた。
長い一日だったな。
今はゆきちゃんが側にいるおかげで心が落ち着いた気がする。
さっきは絶望的だったから。
でも・・・なんだか空回りしていたみたい・・・。
前を走る車のテールランプを見ているうちに杏梨の目蓋は落ちていった。
25分ほどでマンションの地下駐車場に着いた。
途中で愛する女の子が眠ったのが分かった。
精神的にも、肉体的にも相当疲れているはずで、黙っていれば眠ってしまうと思ったから何も言わなかったのだ。
エンジンを切り、助手席を見ると俺のジャケットの裾に伸びた華奢な手を見つけた。
心が温かくなる。
雪哉の顔にこの上なく優しい笑みが浮かんだ。
杏梨を起こさないように静かにお姫様抱っこをしてエレベーターに乗り込む。
「ん・・・っ・・・」
エレベーターの中が眩しかったのか杏梨が身じろぐ。
「・・・ゆきちゃん」
眠そうな杏梨の声だ。
「もうすぐ部屋に着くよ」
額に唇を当てる。
さっきから暴走気味だな。
杏梨に触れないではいられない自分に苦笑いする。
「あっ!ぉ、降りるっ!」
「いいから動かないで ちゃんとベッドまで送り届けるから眠ってて」
しっかり抱かれて杏梨は降りる事をあきらめた。
続く