どうしよう・・・なんて言えば良いの・・・?
気持ちを整理できないまま雪哉に聞かれて杏梨は困り果てた。
何も言わずにこの場から逃げたくなる。
でも逃げてもゆきちゃんは放っておいてくれないだろう。
あっ!立ち上がっちゃった・・・。
ゆっくり雪哉が近づいてくるのを、杏梨は困惑した表情で見つめていた。
腕が伸ばされてゆきちゃんの手が肩に触れた。
そこだけが熱をもったように一気に熱くなる。
「杏梨?どうした?彩に何か言われたのか?」
優しく見つめてくれるゆきちゃん。
その優しい瞳の中にわたしは苦悩を見つけてしまった。
ゆきちゃん・・・苦しんでいるの?
わたしと彩さんにはさまれて・・・。
杏梨は肩に触れている雪哉の手を払うように、一歩退(しりぞ)く。
「あ、あのね わたし・・・ゆきちゃんを本当に好きなのか分からなくなっちゃったの」
わたし、何を言っているんだろう。
「杏梨?」
雪哉は耳を疑った。
「あんな事件があったから・・・触れる事が出来るのはゆきちゃんだけで・・・だから、わたしそれを恋と勘違いしていたのかもしれない」
「何を言っているんだ!?」
杏梨の言葉を理解するには少しの時間を要した。
「わたし・・・わたしはきっと・・・あの嫌な過去を忘れさせてくれる人ならば誰でも良かったのかもしれない・・・」
「バカな事を言うな!俺以外に誰がお前に触れられると言うんだ?」
「・・・峻くん ・・・峻くんならわたしの過去を忘れさせてくれる もう・・・ゆきちゃんじゃだめなの・・・」
「杏梨、落ち着いて聞いてくれないか?座ろう」
杏梨の肩にもう一度手を置き、ソファーに座らせようと試みるが、杏梨は立ったまま動こうとしない。
「何も考えたくない・・・ワシントンへは1人で行くから ゆきちゃんは彩さんの側にいてあげて」
「ふざけるな!」
杏梨のばかげた言葉に、珍しく雪哉は声を荒げた。
「ふざけてなんかいないよ もううんざりなの」
心にもない事がすらすらと出てくる。
これ以上、ゆきちゃんの顔が見れない。
目が痛くなって、口を開けば涙も一緒に出てしまうに違いない。
「ゆきちゃん・・・嫌い」
泣かないように杏梨はボソッと呟くとリビングを出た。
「杏梨っ!」
部屋に行ってしまった杏梨を追いかけようとしたが、思いとどまった。
今は何を言っても無駄だろう・・・。
少し落ち着いてからの方がいい。
一度言い出したら耳を貸さない頑固な面もある。
雪哉は大きくため息を吐くと、ソファーの背にぐったりと身体を預けた。
続く