「すぐにエアコン効くから我慢して」
運転席に座った雪哉が言う。
扇いでいるのは、車内が暑いからだと思っているようだ。
意外と鈍感なんだよね・・・。
みんなの見ている前で腕を回されてドキドキしちゃったからなのに。
「・・・ゆきちゃん、スタッフのみんなに分かっちゃっても良いの?」
「ん?彼らに何を?」
聞きながらサイドミラーに目をやり、車を発進させる。
何をって・・・。
「・・・もう良いよっ」
半分呆れたような言い方に雪哉が口元を緩ませる。
「すねないで、分かっているよ 俺が杏梨を愛しているってことだろう?」
「・・・うん みんなはわたしの事、ゆきちゃんの妹としか見ていないから」
「ばれてもいいよ 10才も離れている杏梨が大好きだから」
「・・・ロリコンって思われちゃうかもしれないよ?」
世間にも注目されているゆきちゃんが、わたしみたいな年下の女の子を好きだって知られたら良くないに決まっている。
仕事にも差し支えてしまうかもしれない。
「ロリコンでもかまわないさ」
真剣な顔で見ている杏梨の頬を指で掴む。
「いひゃいでしょ (痛いでしょ)」
「杏梨はそんなことで悩まないでいい」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、考えてみたらやっぱり良くないと思う。
杏梨は大きくかぶりを振った。
「杏梨・・・」
やれやれと言った表情でバックミラーに目を移し、道路の端に車を停めた。
「言う事を聞かないとここでキスするよ?」
「・・・っ!な、なに言ってんのっ?」
すぐ横には歩行者がたくさん歩いている。
夕方で涼しくなったのでこの大通りも人通りが多くなったのだ。
真っ赤なベンツだから通る人が見ていくのが分かる。
「だ、だめっ!絶対にダメっ!」
こんな所でキスしたら歩いている人に見られちゃうかもしれないよ。
「だから気にするなって言っただろう?」
そう言いながらわたしの方へ顔を近づけてくる。
杏梨は逃げる為にずるずるとドアの方へ身体を寄せる。
「逃げるな」
端整な顔が近づいてきて・・・
「わ、分かったから車早く出してっ!」
「もう時間切れ、キスがしたくなった」
左手を窓に付き、雪哉は逃げようとする唇に唇を重ねた。
続く