「車なんだ、少しドライブする?」
「・・・良いんですかぁ?」
ドライブに誘われて梨沙は飛び上がるほど嬉しかった。
「良くなかったら誘わないよ」
* * * * * *
「杏梨ちゃん、何か良いことがあったのかしら?」
お客様が帰り、ネイルサロンを掃除する杏梨に琴美が聞く。
「え・・・?」
一瞬、何を言われたのか分からず、モップを持つ手を止めて小首をかしげる。
「だって、鼻歌」
琴美が笑う。
「あ・・・」
無意識に歌を口ずさんでいたようだ。
「す、すみません お仕事中に」
「いいのよ?責めているわけじゃないの すごく可愛かったから」
笑顔の琴美だが、心の中では幸せそうな杏梨が妬(ねた)ましかった。
「何があったか聞いてもいい?」
「え・・・っと・・・」
昨日、ゆきちゃんが愛しているって言ってくれたって言えないよ。
「私は妹みたいな杏梨ちゃんが幸せそうだと嬉しいの 弟を3年前に亡くしているから」
「琴美さん・・・」
優しい言葉を言われて言ってしまいそうになる。
「昨日、一緒にお食事をしたから・・・帰ってから何か良い事があったのかしら?それともサロンに来てから?お客様にナンパされた?」
「ナ、ナンパですかっ?ち、違いますっ!」
「じゃあ、おうちで何か良い事があったのね?」
琴美は杏梨の事を興信所に依頼し調べ上げていた。
杏梨と雪哉、2人の両親が結婚してアメリカに渡米し、一緒に住んでいることも。
杏梨と雪哉がただの兄妹の関係だとは思えない。
雪哉が杏梨を見る表情や、杏梨が雪哉を見る雰囲気からして何かあると勘ぐっていた。
「・・・そうなんです」
「杏梨ちゃんが羨ましいわ~ 可愛くて素直で、貴方みたいな妹だったらオーナーは可愛がってくれるんじゃなくて?」
琴美は雪哉をオーナーと呼ぶ。
「あら、嫌だ、ごめんなさいね 知りたがり屋のおばさんみたいね」
「いいえ、琴美さんはおばさんじゃないですっ」
琴美の申し訳なさそうな表情に杏梨は急いで言った。
続く