仲の良い家族が久しぶりに会ったという雰囲気だった。

高校生の杏梨はオレンジジュースを飲みながらお寿司を食べていた。

ママでもお寿司は作れないから近くのお寿司屋さんからとったのだ。


「杏梨、サーモンあげるよ」

雪哉が杏梨の飯台の中に杏梨の大好きなサーモンを置いた。


「じゃあ、ゆきちゃんにうにあげるね音譜

お寿司をとれば決まってお互いの好きな物を交換する。



* * * * * *


「お父さんたちはいつ日本へ経つの?」

ゆずるが食後のコーヒーをみんなに配りながら聞く。


杏梨は起きたばかりの陸君を抱っこしていた。


赤ちゃんの匂いって良い匂い♪


陸の頬に唇を寄せていると雪哉の目と合った。

目が合った雪哉は杏梨にふんわりと微笑む。

その笑みに杏梨は嬉しくなる。


「杏梨の学校の手続きがあるからとりあえず春樹さんだけ来週の金曜日に発つ予定なの」


えっ?

ママの言葉に私は耳を疑った。

まさかそんなに早く行くとは思っても見なかった。

しかも私を連れて行くの?


「そうですよね~ 杏梨ちゃんの学校が変わるとなると色々と手続きがありますよね」

ゆずるが色々と大変そうだと頷いた。


「ちょ、ちょっと待って!」

どんどん話が先へ進んでしまって杏梨は置いてきぼりを食らった心境だった。


「どうしたの?杏梨」

貴美香が娘を見る。


「私、ワシントンには行かない」


「杏梨!いきなりどうしたのよ?」


「いきなりどうしたのって・・・行く話も何もしていないもん」

抱いていた陸君を健太郎に渡す。


「でも杏梨がこっちで1人暮らし出来るわけないじゃない」


「でもママ、私は行きたくないのっ」

怒りに任せて杏梨は立ち上がった。


「・・・杏梨 座るんだ ちゃんと話し合わなければいけないよ」

隣に座っていた雪哉に言われて杏梨は渋々といった風にもう一度座った。


杏梨が座るのを見てから春樹が話し始める。


「杏梨ちゃん、私達は君の事が心配なんだよ 出来れば一緒に来て欲しいんだ」


「そうよ 杏梨」


「でも英語話せないんだよ?どこの高校に入ればいいの?友達だってここにいるし・・・それに・・・」


ゆきちゃんもここにいる・・・。


杏梨の瞳が潤んできた。


今にも大きな目からは涙がこぼれそうだ。


「僕たちの家に来たらいいんじゃないかな?」

そう口を開いたのは健太郎だ。


「そうね 杏梨ちゃんうちへ来なさいよ」

ゆずるも泣きそうな杏梨に言う。


「そんな・・・もう18歳だし、1人で暮らせるよ」


ゆずるさん一家には迷惑かけたくない。

去年結婚したばかりの新婚さんなのだから。


私の目の前に座っているママが深いため息を吐いたのが聞こえた。

娘を1人で置いていく事が心配だ。

特に3年前のレイプ未遂事件があってから臆病になっている娘。

そんな子が1人暮らしなんて出来るわけがない。


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