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https://news.yahoo.co.jp/articles/b53a5c3f10a3ecb39b61b603bf19a54703043b94
五輪の調達課題 無視できないアニマルウェルフェア
1/8(金) 17:39配信
英国では法令として確立
「アニマルウェルフェア」とは、一言で言えば家畜やペットなど人間がかかわりを持つ動物に、死に至るまでできる限り苦痛やストレスなどを掛けないようにすることだ。日本語では「動物福祉」と訳されることが多く、動物愛護や社会福祉などと混乱されることもあるが、英国ではその内容と義務や規制が法令として確立している。(冨久岡 ナヲ・ロンドン 記者)
英国はもともとキリスト教の倫理観を根底にした動物愛護精神が高い国で、そこからアニマルウェルフェアという概念が18世紀ごろに生まれた。
初めての動物虐待防止法が制定されたのは1822年と200年近くも前のこと。対象は牛や羊など限られた種類の家畜のみだった。以来、時代の変化に伴って改正や新法の制定がとどまることなく行われ、焦点は虐待防止から福祉へと発展してきた。
60年代には、人間に飼われる動物が健康で快適な一生を送る権利を謳う「5つの自由」が英国政府によって提唱され、以来福祉は動物の権利も包括することになる。これはまた国際的な動物福祉の理念となっている。
◆「5つの自由」
飢餓と渇きからの自由
苦痛、傷害又は疾病からの自由
恐怖及び苦悩からの自由
不快さからの自由
正常な行動ができる自由
現在はこの理念の進化系である「5つのプロビジョン」(人間が提供しなくてはいけないこと)が採択されている。
狂牛病がビジネスに影響
動物福祉法の対象には、家畜だけではなく薬品や化粧品の開発における実験動物の扱いやペットも含まれている。
食品や薬品メーカーからリテール業まで、事業計画時には必ず配慮しなくてはいけない法令だが、ただ規制と基準を最低限クリアすれば可、という企業の受け身な態度が変わってきたのは90年代に狂牛病が人間の命まで脅かしはじめた頃からだ。
感染していない牛まで大量に屠殺するはめになり、規制すれすれの劣悪な集約飼育が感染拡大の原因として注目された。EUは英国産牛肉の輸出を10年間も全面禁止し、国内の消費量もがた落ちに。
事態が沈静化しても残り続けた食肉全体の安全性への不信感を払拭するため、企業は動物福祉への取り組みをアピールするようになった。
英国では今も、「アニマルウェルフェア」というとたいてい「家畜の福祉」を意味することが多く、取り組んでいるのは主に食に関連する業界だ。また、消費者も食肉購入の際に「フリーレンジ(放し飼い)」「赤いトラクターラベル(環境保全、動物福祉農場産という認証)」などの表示を確認して買っている。
消費者の立場からは、動物に対する福祉への倫理的関心もさることながら、福祉度が高いほど安心して食べられる肉や卵だというイメージがある。ストレスをできるだけ与えない飼育をする農場では、伝染病の流行も少なく抗生物質の投与率が下がり、成長ホルモンや人工飼料も避ける傾向にあるからだ。
ちなみに、EUでは1999年に「動物は意識と知覚を持つ生き物である」と定義、「5つの自由」の観点から動物福祉に関する規制を多く打ち出している。
その内容は、化粧品の開発での動物実験、バッテリーとよばれる密集ケージ養鶏および雌豚や子牛の仕切り飼いの禁止、家畜輸送時の配慮などさまざまな分野に及んでいる。
動物福祉の先駆を切った英国はEUの福祉法をフルに取り込んでいるが、EU加盟国の中には自国での動物の取り扱いに関する伝統や慣習などが法の定めと反するために遵守していない場合も少なからずある。
食糧保障と動物福祉
家畜福祉に関してベジタリアンからの反発は「どんなに優しく育てても、結局は最後に殺して食べてしまう」という部分を問題視する声も大きい。
近年欧米で増えるばかりのベジタリアン(菜食主義)、ビーガン(卵やはちみつを含め動物由来の食材はいっさい食べない厳格な菜食主義)たちは、人類が肉食をやめれば動物福祉は不要になると説いている。
しかし2050年には97億人に達する見込みという世界の人口全員が完全菜食に切り替えることは不可能だろう。肉や卵、牛乳など動物由来食料の需要は2050年に今の倍量となる。
企業の動物福祉努力と達成度を認証する英国の国際団体、「ベンチマーク・オン・ファーム・アニマル・ウェルフェア(BBFAW)」のニッキー・エイモス代表は、「これからさらに大量の食糧が必要になる中、大規模な集約的畜産はなくならない。だからこそ食にかかわる大企業が動物福祉に真摯に取り組み、サプライチェーンをトップダウンで変えていくことが重要。人権とともに動物の権利にも意識の高い英国や欧州では、動物福祉も企業責任の一端ととらえて評価していることを忘れてはならない」とガーディアン紙に語っている。
英企業の取り組み続々と
スーパーマーケットM&S(マークス&スペンサー)の食品事業では、アニマルウェルフェアにおいても早くから「責任ある調達」を徹底してきた。ケーキやデリ製品に使用する卵をフリーレンジのみに限定したのはもう15年も前のことだ。
取引する酪農家や畜産業者を厳選し、農場レベルから飼育環境の福祉度が高いことを確認している。BBFAWでは、2013年から連続で最上級ティア(ティア1)にランクインしている。
イケアは2018年、アニマルウェルフェアを国際企業レベルで促進するための団体、グローバル・コアリション・アニマル・ウェルフェア(GCAW)をネスレなど7企業とともに設立した。
欧州のイケアでは、食堂やカフェで使用される食肉、魚、乳製品、魚肉加工品などの食材が、国およびEUの福祉法に沿っていることをサプライチェーンの全てでチェックするシステムを用いている。
安い価格が第一義のファストフードチェーンとて、英国とEUの福祉法令と消費者の要求を無視はできない。KFCは2026年までに養鶏と屠殺環境を一定のレベルに引き上げるという「ヨーロピアン・チキン・コミットメント」にいち早く参加。契約養鶏場でのケージ飼いや嘴切断の禁止などを5項目にまとめた「KFCのチキンの育て方」を提示、取り組みをウェブサイトで報告している。
最大手ドラッグストアのブーツは、自社ブランドコスメの開発のプロセスにおいて実験動物を使わないこと、同様に動物で実験されていないことが確認できた原料のみを用いている。店で販売するサンドイッチに使われる卵を2017年からすべてフリーレンジに変えた。