クーリエジャポンからです。
https://courrier.jp/news/archives/207019/
むごい檻か保護施設か─人類は動物園をすべて失くすべき?
イギリスでは動物園撤廃の動きも
本来であれば野生にいるはずの動物を人間のもとで繁殖させ、育て、その一生を世話する──そんな動物園の存在意義がイギリスでは議論されている。狭い檻で生涯を終える動物は不幸なのだろうか。動物園は、動物を保護するうえで必須の施設なのだろうか。さまざまな立場から見た「動物園の必要性」を英「ガーディアン」が取材した。
動物園は方舟か
サバとナイロは2歳のチーターだ。素敵な旅に向け、2頭は数日後にイギリスを発つ。この兄弟は野生で新生活を送るために、英ケント州のハウレッツ野生動物公園から南アフリカへ飛行機で移送されるのだ。ハウレッツ野生動物公園を経営するダミアン・アスピノールによると、飼育下で生まれたチーターがイギリスを離れてアフリカの野生に戻るのは初めてのことだそうだ。
「地球上にはチーターが7000頭ほどしか生き残っておらず、絶滅危惧種に指定されています」とアスピノールは言う。
「今回は、アフリカ南部にある保護区で野生復帰します。これは野生に残っている少ないチーターの個体群を支えるうえで重要なことです」
「野生動物公園から動物を野生に戻す流れは今後も続いていくでしょう」
アスピノールは現在、保護されたすべての動物を野生に戻し、最終的にはアスピノール自身の動物園を含むイギリス国内のすべての動物園と野生動物公園を閉鎖するべく、精力的に活動している。
「私たちに好奇心があるからといって、動物を苦しめる道徳的権利はありません」
動物園の時代は終わった、というのがアスピノールの主張なのだ。この見解は、野生動物公園や動物園が時代錯誤で、今後25年間にわたって段階的に廃止されるべきだと考える他の批評家にも支持されている。
それでも動物園は、イギリス文化において大きな存在だ。
イギリスとアイルランドの動物園・水族館協会によると、毎年およそ3000万人もの人々が動物園を訪れている。
ただ動物園のなかには小さくクローズドなものもあり、動物虐待で問題になることもあるという。一方で動物園に賛成している人々によると、ロンドン動物園やチェスター動物園のような大規模な施設はうまく運営している。だから教育・研究・保護という3つの明確な理由によって存在すべきであるというのだ。
また、地球に存在する野生生物のすばらしさを一般に公開し、自然に戻れるよう野生動物の生態を調査することは、動物園が存在する正当な理由になるという。
気候変動、生息地の消失、急増する人口に悩まされている世界で、動物園こそが「絶滅の危機に瀕している世界の種を保護している」というのが、彼らは主張だ。
「教育機関」としての動物園
さて、誰が正しいのか。
今日、野生動物を保護しておく正当な理由があるのか? 動物園は絶滅の危機に瀕している地球上の生物にとって良いものなのか、それとも野生生物に対する過去の残酷な考えの名残なのか?
「動物園は訪問者、特に若い世代の人たちに、地球上の野生生物のすばらしさを教えている」──そんな見方もある。しかし、野生動物の保護に反対する国際的慈善団体 「ボーン・フリー」 のクリス・ドレイパーは、この意見に反対だ。
「現代人は動物園で本物を見ることで得られる以上のものを、テレビのドキュメンタリーから得ています。飼育下のゾウやキリンは自然環境から外れており、不自然な社会的集団の中にいるのではないでしょうか。動物を理解するには、動物園よりもテレビやインターネットの方がはるかに良い情報源なのです」
アスピノールも同じ意見だ。
「デイビッド・アッテンボローのテレビ番組は、日帰りで動物園へ行くよりもはるかに教育的ですよ」
彼らの言いたいこともわかる。アッテンボローによるドキュメンタリーシリーズである『Seven Worlds, One Planet』は見事な素材で構成されているのだ。ヒョウアザラシから逃げてきたジェンツーペンギン、グアナコを追いかけるピューマ、さらわれた子供を追うバーバリーマカクなどのドラマチックな映像──これらは爽快でありながらも情報量が多く、人々を動物に夢中にさせるきっかけとして間違いなく理想的だろう。
しかし、アッテンボローはきっぱりと反対し、彼のドキュメンタリーは本物の動物を見ることにはかなわないと強調する。 「動物の本質を正しく理解するには、実物を見てみるしかありません」とアッテンボロー。ゾウが何であるかを理解するには、ゾウを近くで見るしかない──そう彼は語った。
「動物はどんな姿をしていて、どんな匂いがして、どんな声や音を出すのか。これらを知るチャンスを人は持つべきです。こういったことが実は、とても大事なことなんですよ」
教育という意味では、運営状態の良い動物園の存在は確かに正当だろうと彼は主張する。一方で、動物園で暮らすことに向いていない動物がいることも認めている。
「現代の水族館なんかは特に良い成功例でしょう。天井の高い巨大な水槽が用意されていて、さまざまな種類の魚が一緒に生活している様子が見られる。あれは本当に素晴らしい」
対照的に、ホッキョクグマや大型猛禽類、ライオンのような、大型で狩猟をする哺乳動物は動物園での飼育に適していないとアッテンボローは語る。
「ライオンが絶滅の危機に瀕していない限り、動物園でライオンを飼育すべきではないという点では、私はアスピノールに同意します。これは今や本当のリスクになりつつあるんです」
そして、保護活動についても同じことが言えるとアッテンボローは付け加えた。
「絶滅の危機に瀕している動物の繁殖計画は重要です。もし動物園がなかったら、アラビアオリックスは地球上からいなくなっていたでしょう」
娯楽として「展示」される動物たち
アラビアオリックスは1972年までに捕獲し尽くされ、野生では絶滅した。しかしその後、もともとはサンディエゴのサファリパークにいた同種を、オマーンの野生に還したのだ。続いて、サウジアラビアとイスラエルでも野生復帰が行われ、現在、野生のアラビアオリックスは1000頭以上いると推定されている。
ヨーロッパバイソンやモウコノウマなども含め、動物園で飼育されていたさまざまな動物が野生に戻された。しかし、たったその程度だとアスピノールは主張する。
「ヨーロッパの動物園で飼育されている動物のうち、野生復帰の対象なのはごく少数です。飼育されている種のうち、3分の1は絶滅危惧種ではありません」
それどころか、動物園には一般の人々を楽しませるためだけに絶滅危惧種でない動物たちが飼育されている。カワウソやミーアキャットがその典型だ。
一方で動物園関係者は「野生復帰の成功例はわずかである」という意見を否定する。たとえばモーリシャスチョウゲンボウは、動物園で飼育されていた動物を野生に戻すことに成功した重要な例のひとつだ。
1974年、この美しい猛禽類は、野生でわずか4羽しか確認されなかった。生息地の消失、外来の捕食者の出現、そして殺虫剤などの農薬により、世界で最も希少な鳥となったのだ。
野生のモーリシャスチョウゲンボウを絶滅から救うため、デュレル・ワイルドライフ・パークやロンドン動物園を含む多くの組織が救済計画を開始した。「特に外来種のカニクイザルが問題でした」とロンドン動物園で鳥類の学芸員を務めるゲリー・ウォードは言う。
「カニクイザルはアジアからモーリシャスに到着し、モーリシャスチョウゲンボウの巣から卵を盗んでいました。そこで、サルの腕よりも長い巣箱を設計したところ、サルの手が卵に届かなくなったのです。以降、鳥たちは安全な場所でひな鳥を育てられるようになりました」
モーリシャスチョウゲンボウの数はその後、動物園の主導するプログラムも相まって約800頭にまで増加した。とはいえ、近年はまたわずかに減少している。
~転載以上~
様々な意見があると思いますが…
ヨーロッパの動物園では、飼育スペースの不足や増えすぎたなどの理由で、健康な動物の間引きが度々行われています。
日本の園を含めて、群れで暮らすゾウがたった一頭で何年も狭く冷たい檻の中で飼育され、海外から厳しい目を向けられることもあります。
負担のかかる環境でケガをしている動物や、ストレスから常同行動を起こす動物も多く見受けられます。
動物園の存在について、もっと議論が深まるといいですね。
ちなみに生物多様性に富んだ南米コスタリカは、国中の動物園を閉鎖したことで話題となりました。