神戸新聞からです。

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新スマスイのシャチに賛否 「ジンベエザメに対抗」「野生より早く死ぬ」

12/24(火) 6:10配信

 

新スマスイのシャチに賛否 「ジンベエザメに対抗」「野生より早く死ぬ」

新スマスイで計画されるシャチショーのイメージ図(神戸市提供)

 

 神戸市立須磨海浜水族園(スマスイ、同市須磨区)の再整備の主役と期待されるシャチ。世界中での飼育が60頭ほどという希少さや雄大な姿で観客を魅了する一方、「狭い水槽に閉じ込めるな」など動物福祉の観点から飼育すること自体が批判されている。専門家は「施設側は客が求める娯楽性を提供している。観客が人間と動物の関わり方を考える必要がある」とする。(堀内達成)

 新スマスイでは、食事をしながらシャチのショーを楽しめるスペースを計画。「神戸保全繁殖センター」を設立して繁殖を目指すほか、研究成果を展示物などで伝える「オルカ(シャチ)ラボ」も予定している。

 現在、シャチの飼育は米国や日本、中国など8カ国で約60頭。国内では鴨川シーワールド(千葉県鴨川市)の4頭と名古屋港水族館(名古屋市)の3頭のみ。農林水産省令で学術目的以外の捕獲は禁止されている。

 シャチの飼育やショーは、2013年に公開されたドキュメンタリー映画「ブラックフィッシュ」がきっかけとなり、一気に批判が高まった。米国の海洋テーマパーク「シーワールド」で起こった調教師が襲われる事故や飼育環境を扱った内容で、動物愛護団体などが批判を展開。顧客離れが進み、シーワールドはショーの禁止を決定。現在のシャチを最後に飼育を取りやめる。

 今回の新スマスイの計画に対しても、反対の声が上がっている。世界的な動物愛護団体「PETA ASIA」は「狭い水槽に閉じ込められ、野生で生きるよりも早く死ぬ」などと主張し、計画中止の要望書提出をネットで呼び掛ける。

 陳情書を神戸市に提出した団体「PEACE(ピース)」(東京都)も「新施設が開館する5年後には、国際都市・神戸でも住民の意識が変化しているのではないか」と危惧する。また複数の神戸市議に対し計画の反対を求める、同じ文面のメールが大量に届いている。

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 一方、今回の再整備事業者の代表社がグループ会社を通じて運営する鴨川シーワールドは「シャチは身近で観察することが難しい。生物多様性を紹介することに意義がある」と訴える。ショーについても「自然環境で見られる行動を導き、集約して紹介する行動学的展示の一手法。ショーの訓練を経て、採血や体温測定などの医療行為が容易にできるようになり、健康管理にも役立っている」とした。

 名古屋港水族館は「種の保存のため飼育は必要」と説明。また「国内外の水族館と情報交換し飼育環境の整備や健康管理には気を配っている」とした。

<集客力に期待/外国人反発の恐れ>

 「海遊館(大阪市)のジンベエザメに対抗するにはオルカ(シャチ)しかいない」「インバウンドのターゲットは欧米豪のお客。反感や反発を持つ方もいる」-。神戸市立須磨海浜水族園の再整備を巡り、神戸市に諮問する機関の委員たちもシャチに期待する一方、懸念を抱いていた。

 大学教授ら計6人で構成する「須磨海浜水族園・海浜公園再整備事業者選定委員会」は、9月にあった会議で応募した2事業者から聞き取りなどを実施した。この際の議事要旨によると、委員らは「オルカの集客力はすごい。大きな生き物は人を引き付ける」「素人が来ることを考えると集客力では妥当」「オルカはスター。水族館はスターがいないと立ち行かない」などとシャチを主役に据えることに太鼓判を押す。

 一方、「事業全体のコピーとして『神戸にシャチ』はどうか(と思う)。抵抗感がある人も多い」「(シャチのショー禁止など)世の中のルールが変わったら全部倒れてしまう」と危惧を示す委員も。しかし、最終的には5人がシャチを前面に押し出した事業者を評価し優先交渉権者に選定。その後、市と事業者が基本協定書を取り交わした。

【施設側を責めるのは疑問 富山大の神山智美准教授(環境法)の話】 施設にとってシャチの役割が「客集め」と思われることは仕方がない部分がある。ただ、施設が運営を成り立たせるためには「目玉」が必要で、施設側を一方的に責めることは少し疑問に思う。料金を支払う観客が、施設に教育面よりもサーカス的要素を求めている点に問題があるのではないか。この問題には人間社会と動物の関わり方が投影されていると思う。

【シャチ】海洋食物連鎖の頂点に立ち「海の王者」と呼ばれる。世界中の海域に広く分布。雄は体長最大9・8メートル、体重10トン。最高寿命は雄で60~70歳、雌で80歳代とされる。サンケイビルを代表とする企業グループの運営に切り替え、周辺の須磨海浜公園と合わせ関西屈指の都市型リゾートを目指す新施設の集客の核となる。新スマスイの料金は高校生以上3100円となるなど、再整備に伴う大きな変更が利用者の関心を集めている。