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サーカス引退後、居場所なき動物


2015.9.16 05:00



ボリビアで保護され、「ワイルド・アニマル・サンクチュアリ」で暮らすライオンたち(ブルームバーグ)



ひげをピクピクさせながら、クロヒョウのジュマンジがフェンス越しに来訪者の様子をうかがう。次の瞬間、彼は耳を後方に伏せ、黄色い目を細め、牙をむき、フェンスに向かって飛びかかった。


「遊んでいるつもりなのだ」と語るのは、ワイルド・アニマル・サンクチュアリの創設者で、ジュマンジを米オハイオ州の動物園から保護したパット・クレイグ氏だ。ジュマンジは耳に凍傷を負い、自分の尿の中に横たわっていたため感染症にかかっていたが、コロラド州デンバー北東部の草原で看護を受け、健康を回復した。


 体重約59キログラムのジュマンジは幸運だった。クレイグ氏が非営利で運営する公園では、少数のスタッフと何百人ものボランティアがジュマンジを含む約400頭の肉食動物や、ハナグマ、アルパカ、ラクダなどの世話をしている。この公園は、サーカスや希少動物を集めた無許可の動物園、こうした動物をペットとして飼う人々などから保護された動物を受け入れる、全米に数十カ所ある施設の一つだ。


 ◆保護施設は過密状態


 営利目的で繁殖される動物は多い。赤ちゃんライオンには1000ドル(約12万円)、ホワイトタイガーの子供には3万ドルの値がつく。だが、彼らの寝床はトウモロコシ倉庫や馬用トレーラー、地下室などで、さらにひどい場所の場合もある。クレイグ氏の施設には、爪をペンチで剥がされたクロクマのバルーや、ストレスのため前脚と尻尾の毛が抜けた状態で保護されたマウンテンライオン(ピューマ)のメジャーなどがいる。グリズリー(ハイイログマ)のガイカとマーシャは17年間トラックの中で飼われていて、調教師が芸を仕込むために使ったニコチンの中毒になっていた。こうした厳しい境遇への注目が集まるようになったことで、保護施設は過密状態だ。



 カリフォルニア州で3カ所の保護施設を運営するパフォーミング・アニマル・ウェルフェア・ソサエティー(PAWS)の共同創設者、エド・スチュワート氏は「動物を手に入れ、売買し、繁殖させることがあまりにも簡単に出来過ぎた。地方自治体はようやく規制の強化に乗り出し、全ての動物に安全なすみかを与えようと急いでいる」と指摘する。


 米国ではサンフランシスコを含む40都市以上で、野生動物や希少動物を使った興行が禁止されている。巡業サーカスに野生動物を登場させることを禁じる国はギリシャやペルーなど30カ国に上り、今年年末には英国もこの仲間に加わる予定だ。


 最も古いタイプの米サーカス団も追い詰められている。リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカスは、活動家からの圧力やフックの付いた突き棒の使用禁止を受けて、アジアゾウの曲芸をプログラムから外す計画だ。


 オハイオ州では4年前、ゼーンズビルに住む男性が飼育場で飼っていた動物56頭を逃したことをきっかけに、行政が動いた。同事件では警察がトラ18頭、ライオン17頭、マウンテンライオン3頭、クロクマ6匹、ハイイログマ2匹、ヒヒ1匹を殺す結果となり、同州のケーシック知事は即座に希少動物の販売と所有を規制する法案に署名した。


 米国では1966年以降、動物保護法により特定の動物を展示する企業にライセンスの取得を義務付けているが、PAWSのスチュワート氏によれば、取得は容易だという。一方、8年前に成立したネコ科の大型動物の州間輸送を禁止するキャプティブ・ワイルドライフ・セーフティー法は、不適切な場所で飼育される動物の削減に寄与し、11の州で同様の規制が採用されるに至った。


◆農場の一部を解放


 クレイグ氏は19歳だった35年前に、家族の経営する農場の一部を使い、数エーカーの規模でワイルド・アニマル・サンクチュアリを始めた。現在では敷地面積が720エーカーに拡大、今後さらに120万ドルを集めて600エーカーを買い足す計画だという。ジュマンジのほか、ホワイトタイガーやピューマなど17頭のためだけでも、100エーカーの土地が必要なのだ。


 動物たちは特異な行動パターンを考慮して設計された囲いの中に、種類ごとに住んでいる。ヤマアラシやキツネ、オオカミは穴を掘るため、彼らのすみかを囲むフェンスは地下1.8メートルまで埋められている。


 保護施設の年間予算1100万ドルの半分は寄付金で、残りは食料品や建材などの寄付でまかなわれている。動物たちは小売業者ウォルマート・ストアーズの厚意により、肉や生卵、桃、アスパラガスなど週に1万3600キログラム以上の餌を食べる。十分な量が与えられているため、食べ物をめぐって争いが起きることはない。


 飼育区域の規制や衛生規約を知らずに動物をペットとして購入する人々の存在が、保護施設の不足に拍車をかける。最近では行き場のないミニブタや、オオカミとイヌの交配種の数が増えているという。


 クレイグ氏はメキシコ海軍が同国の動物園やサーカスで保護された動物22頭を軍用機で運んで来るのを待っている。その横には、サンフランシスコからお手伝いに駆けつけた8歳のアンジャリ・ポルちゃんがいた。お小遣いを寄付するという。


 母親のハイディ・ブッツさんはアンジャリちゃんと4歳になる弟のアクセル君を連れて、夏ごとに保護施設を訪れている。「子供たちには全ての動物が幸運なわけではないということを学んでほしい」と彼女は語った。(ブルームバーグ Jennifer Oldham)