とうとう、恐れていた旅行出発の日が来てしまった。その日は、朝から後輩たちが迎えに来きて、いそいそと出て行った。
『いってらっしゃい。気をつけてな。約束忘れなやー。』
必死に明るく、少しなごり惜しそうに言葉をかけても

『行ってくるわ。』

の一言で後ろを振り返ることもなく出ていく蹴りたい背中。
2人きりでは無いにしろ、この間まで好きだった女と同じホテルで、一夜を共にする。それを知っていながら止めることができない。何とも歯がゆくやり切れなかった。社員旅行と言う大義名分がある限り会社員の妻であるワシに止める術は無い。


そういえば、先のログで旦那が転職た今の会社の話をしましたが、スパイの人数などでもお分かりでしょうが、これは全社員合わせても100人前後の中小企業での社内不倫ノンフィクション私小説でございまぷ。笑




実はA菜と会った翌日、例のベテラン事務員おばちゃんの携帯でワシのLINEが追加され、そこには『A菜から話を聞きました。これからは、私がA菜の行動がももままさんの誤解を生むことがないよう、しっかり監督し教育していきますので、心配なさらぬように』とメッセージが入っていた。なんでこの人がここまで立ち入ってくるのか、その時はよくわからなかったけれど
そのこともあって、A菜が旅行で一緒なのはたった1日。それも、このおばちゃん事務員が旅行に随行している限り大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、何もない信じよう。祈る気持ちで送り出した。

たかだか2泊3日。通常であれば、旦那の夕飯業務から解放され、私も2日間外で友達らと羽根を伸ばす所だが、とてもそんな気にはなれず、かといって、家で1人悶々と長い夜過ごすなんて耐えられない。旅行初日は前々から友達らに声をかけA菜が参加する夜は家に来てもらうことにしていた。誰かといれば、少しは気が紛れる。時間の経つのが早くなる。そう思い来てもらったのだが、喋って、楽しくしていても、常に電話が気になる。頭の中には旅行でA菜と嬉しそうに喋っている。旦那の姿が浮かぶ。
『私が電話したら必ず出てな。なぁ、わかった?約束してな。』

『わからん。酔っ払ったら気付けへんかも知らんし、約束して電話出へんかったら、お前またキレるやろ。』

『……。じゃ、着信に気がついたらかけ直して。』

『んお、わかった。うっさいわー。』

『絶対やで。』

そんな私が今聞いても寒なるような口約束を無理矢理取り付け、会食が終わった位の時間に
しなきゃいいのに、出るはずのない電話をかける。
出ない。
当たり前に落ち込み、そこからはひたすらかけ直してくるはずもない電話を待ち続ける。
電話がかかってくれば、背後に聞こえる話し声で、2人きりではない確認が取れる。そんなわずかな希望をアリバイにすることで安心を確認しようとしていた。

本当に、あの頃の私は藁にもすがる気持ちだったなぁ。
仲良かった友人達にはあの頃のワシはどのように映っていたのか。
全てが終わった後聞いてみた。
笑いながら泣いて別人のようにしぼんでしまったワシに、まざまざとサレ妻の姿を見てとても戸惑いドン引きしたらしい。←でしょーね🤣



全幅の信頼を置き、魂まで預けた人間に裏切られるとそれまでの自分がどんなだったか全くわからなくなる。全てをはぎ取られた裸ん坊のワシ。

下手な駆け引きなど全く通用しない。好きを見透かされ、策を弄すると逆に返り討ちを喰らう。

まるで駄々をこねる幼子のように泣いてすがるしかない。意見する度、容赦なく切り捨てようと振り上げる刀に身を縮ませ怯え震え続ける。

弱く情けない自分が本当に
ほんっとに嫌いだった。