としまえんにありがとう | 桃井はるこオフィシャルブログ「モモブロ」Powered by アメブロ

としまえんにありがとう

もい!


としまえん、最後の日だなんて……

 ここに、月刊『ラジオライフ』誌連載『モモーイアンテナ』のために2011年に執筆した原稿のスケッチの一部を、

後に撮った写真とともに残しておきたいと思います。

 としまえんに取材に伺った際にはご担当の方にあたたかく迎えていただき、それも今では、想い出ですね。


 これを書いた頃のわたしには、まさかとしまえんが閉園してしまう未来があるとは、

想像できなかったのです。

正直今でも実感が湧きませんけど……。


それでは、長文失礼します。


……


(前略)

 遊園地のメリーゴーランドは、すべてが同じポーズをしている白馬というものが少なくありません。平等という意味では正しいのかもしれないのですが、わたしには居心地の悪さ、違和感があります。

 わくわくしながら列に並び、自分の番になり、どれに乗るか自分で決める。それを柵の外で見守る両親。子供時代のその体験が、わたしが生きる上で大切にしたいことを象徴しているように思えるからです。前後左右を見ても、子供たちがみんな自分と同じ白い馬に乗っているなんて、あんまり面白くないと思うのはわたしだけでしょうか。


 (中略)









 わたしにとっての最高のメリーゴーランドは決まっていて、これからも変わることはないでしょう。それは、としまえんにあるカルーセルエルドラドです。わたしたち家族はとしまえんの年間パス「木馬の会」の会員で、子供の頃には何度もこの遊園地を訪れました。そこで幼いわたしがいちばん楽しみにしていたのが、このエルドラドです。

 1907年にドイツにて機械技師ヒューゴー・ハッセが造り、その後ヨーロッパ各地の移動遊園地を巡業した後、ニューヨークから日本にやってきて修復され、1971年に公開されました。世界最古級の木製のメリーゴーランドは、重なった3つのステージが摩擦駆動により異なる回転速度で動くのですが、外周の下の段の馬に乗っている時はほどよい速度で優雅なイメージで、一番上の段に乗るとけっこうな速度を感じます。

 手彫りの細工で一体一体違う表情を見せる馬達。ベルベット張りでロマンティックな印象のラウンドチェアやカウチ。そして、ヨーロッパでは神聖視されていた豚がいるというのが個性豊かで、日本人からするとちょっとコミカルに思えます。馬の尻尾は毛でできているというのも特徴的ではないでしょうか。ワルツの優美な音楽の中で回転をはじめると、大きな木製のステージが歯車によって回る、ゆるく低い独特な音が聴こえてきます。


 1982年にはこの回転木馬前に特設ステージを設置して、ミュージカルが上演されていました。『まわれエルドラド』はエルドラドが日本にやってくるまでのストーリーを綺羅びやかな衣装の役者さん達が歌と踊りにのせて演じる華やかなものでした。子供の頃のわたし(※1977年生まれです)は開演前から並びその最前列をゲットし、幾度と無くその舞台を見ました。フィナーレでは、歌とともに銀色の紙吹雪が舞います。終演後、わたしは地面にちらばったままのそれらをそっと自分のちいさなポシェットにしまい持って帰ったり、家で歌や踊りの真似をしてエルドラドごっこをしたり、たいそう憧れていました。今も『♪まわれ回れ~回転木馬~』という歌を覚えています。でもこのミュージカルに関してはあまり資料が残っていないそうで、ちょっと残念。わたしの記憶にはしっかりと刻まれているのに。

(:その後、数々の資料や映像が発掘されたようです!YouTubeには動画まで……貴重すぎるビデオに大変感激しました。ありがとうございます。)


 カルーセルエルドラドにわたしは沢山の夢の時間をもらいました。同じようにこのエルドラドに想い入れがある方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 昨年カルーセル・エルドラドは、機械遺産第38号に選ばれました。機械遺産とは歴史に残る機械技術関連遺産を大切に保存し文化的遺産として次世代に伝えることを目的とするものだそう。認定をした日本機械学会のウェブページを見ると「2007年に創立110周年を迎えた」とあり、このエルドラドと同い年の設立いうことに不思議な縁を感じますね。これからは明治時代からの様々な人々の記憶の中だけではなく、人類の貴重な「遺産」として次代に受け継いで行ってもらえたらいいなと思います。

 桜が満開の春休みの午後。2000年代生まれの子供たちを乗せて、カルーセルは周りつづけていました。外の世界がどんなに変わっても、ここにはずっと変わらない、ロマンティックな時間が流れています。


……


 そして、令和ニ年。

 今日、としまえんは94年の歴史に幕を下ろすそうです。


 エルドラドのほかにも……

 浮遊感が本気で怖かった雄大なフライングパイレーツ。

 最後の空港のシーンで手を振るスチュワーデスの一抹の寂しさがまた乗りたくさせるアフリカ。

 ひねりというものを初体験させてくれたコークスクリュー。

 他の追従をゆるさない独特なホラー感が迫るミステリーゾーン。

 ロケットに乗り込み宇宙旅行への憧れをかきたてられたアストロライナー……

沢山の夢をいただきました。


 としまえんの乗り物、

桜をはじめとした木々や花々たち、

波のプールに揺られる楽しさ、

美しく儚い夏の花火、

そこに集う、自分と同じように楽しもうと足を運んだ家族、友達、恋人たち。


 思い出せば、過去には楽しい時間にみんなマスクをしていなかったな。

 これからはそれも変わるのか。

 ああ、どんどん過去の風景に感じられてくる。


 としまえんは、子供の頃からそばにあって、

大人になってからも、

「いざという時にはとしまえんに行ける」と思わせてくれ、

いつ訪れても穏やかな風が吹く場所でした。


 大切な想い出をいっぱい作らせてもらいました。本当の意味で豊かな時間をここで過ごせたことにお礼を言いたいです。





 としまえんの中の人へ。

こちらこそ、ありがとうございました。

本当におつかれさまでした。


↑としまえんでいちばん旧い建物。


もいもい!