★★★

『じゃ、いい子で待っててね?』

松本さんは、アタシの腕の中にみかんを返すと、そう言ってヒラヒラと左手を振った。

その言葉は、みかんに向かって言ったような…アタシに向かって言ったような……。

思わずドキッとしてるアタシに、彼はフフッ…と猫背の背中を震わせた。

バタン…と閉まったドアに、ガチャンと鍵がかかる。

あ~ぁ、…ホントにアタシを置いて行っちゃった。

初対面の得体も知れない隣人と猫一匹を残して。

ポツン…と、やたら広くて片付いた部屋に一人残されて落ち着かないアタシは、みかんを抱いたまましばらくソファーに座って部屋の中を眺めた。

よそ様の部屋を、勝手に見てはいけないような気もして、ドキドキする。

「あっ……こら、みかん!」

チリンツ…と首輪の鈴を鳴らしながら、アタシの腕をすり抜けてみかんがどこかに行ってしまった。

「みかんっ、待って!ダメだよっ!」

みかんは足がすばしっこくて、時々うちでも迷子になる。

ましてや、よそのおうちなんかで迷子になられたら大変だ……。

アタシは慌ててみかんを追いかけた。

それにしても、やたら楽器とゲーム機だらけの部屋。

一体、彼は何してる人なんだろう?

すっかり迷子になってしまったみかんを探しながら、アタシは途方に暮れていた。


★★★

みかんちゃん、松本さんち(仮)で迷子中ww

おーい、出てこ~い!!