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そろそろ時計の針は20時を指そうとしてる。

彼女に電話する…って、約束した時間。

それなのに、時間を過ぎても一向に終わらないリハにオレは少し苛ついていた…

「ねぇ、翔ちゃん、なにさっきから時計ばっか気にしてんの?」

『えっ?いやっ、別に…、してねぇよ?』

「してるよ~?あ、ほら、また見た!なに?何か約束でもあんの?」

こんな時は、そっとしといて欲しいのに、やたら絡んでくるメンバーたちに苛々する。

『何でもねぇって!ほら、次、早くやんぞ!』

そうしてただ過ぎていく時間に、オレは諦めにも似たものを感じていた。

オレたちの仕事は、こうやって約束さえちゃんと守る事も出来なくて、

今まで、一体どれだけの大切な人を傷付けたり失ってきただろう。

やっぱりオレには、普通の女の子との恋愛なんて、無理なのか?


「翔さん、あとオレらだけで何とかなるから、今日はもういいよ?」

《そうだよ、何か大事な約束、してんでしょ?》

『あ、うん、約束っつぅか…悪りぃ、ちょっと電話だけ。ごめん、すぐ戻るから』

オレはリハの合間を見て、携帯を握りしめるとリハ室を出た。


時計はもうとっくに20時を過ぎて、21時をはるかに越えていた。

こんな時間に電話するなんて、ちょっと非常識なのか…それとも常識の範囲内なのか…

感覚的にそんな事さえも、きっとオレと彼女では違うんだろうな。

かたや真面目でお堅いぐらいの図書館 司書の女性…

かたや芸能界と言う華やかな世界で、今やトップアイドルにまで上り詰めた男。


住む世界が違いすぎる?!


屋上へと続く階段を駆け上がりながら、そんな事まで考えていた。


何となく、彼女が待っていてくれるような気がして、

オレは携帯電話のボタンを押していた。


RRRRRRRR~♪


どこかで聴いた事のあるようなピアノのメロディーが待ちうたに設定されていて、

オレの気持ちを和らげていく。


---はい、もしもし?


数回目のコールで、電話が繋がり、彼女のちょっと透き通るような優しい声が電話越しに聞こえた。


★★★
少しづつ…近付いていく距離……