ときどき減薬中(あるいは断薬後)の方から連絡をいただきます。

 減薬中ならなおさらのこと、断薬しても、離脱症状が続き、あまり改善の兆しもない(それどころか日に日に悪くなっているような気さえする)という話の内容です。

 先日は突然電話がかかってきて、上ずった声(泣き声)でこんなふうに訴えられました。離脱症状(副作用)がひどくてある病院に入院したところ、一気にベンゾ系の抗不安薬を切られてしまい、たいへんな状態になってしまった。病院からいじわるされている、と。

パニック状態になっているようなので、少し落ち着くように伝え、よくよく話を聞いてみると、強制断薬後、医師に交渉し、同じ薬を処方してもらったとのこと。

 だとしたら、少し戻して様子をみては? と提案しましたが、薬は飲みたくない、そもそもこんな薬、効いていないし、ほんと、飲むの嫌なんですよ、でも、この状態は耐えられない、どうしたらいいのか、飲むとしたら何㎎飲めばいいんですか?……。

グルグル思考の渦に巻き込まれているようで、延々と質問、疑問、不平、不満の言葉が続きました。

 離脱症状の特徴の一つかもしれません。

 私としてはその人のこれまでの服薬歴も知らないし、そもそも薬は個人差が大きいのではっきり何㎎戻せばいいか、言えませんでした。

 ともかく、この薬、飲んでも地獄、減らしても、やめても地獄。

 有効なアドバイスもできないまま、電話を切りました。

 

 もう一人は、断薬済みの女性ですが、体調が一向に上向かず、それどころか、どんどん悪くなっていくと訴えます。夫と子どもがいるのですが、どうやら家族からも疎まれている様子。思考力がなくなり、家事もできなくなり、体に力が入らず、筋肉がなくなり、焦燥感を抱えながら、ほぼ1日寝ている状態とのことでした。

 夫は薬に関して理解がなく、「そんなにつらいなら、薬を飲めばいい」と言うばかり。子どもは子どもで、そんな母親を横目で見ながら、怨み事を口にする。すると夫は、そんな子どもを見て、「おまえが何とかしろ」と言う。

ついに、子どもはひきこもって、不登校になってしまったといいます。

 女性は布団に横たわりながら、自分と自分の母親との関係、自分と自分の子どもとの関係、夫との関係を深く考え、自分はこうなるべくしてこうなった。もうどうにもならない、生きていても仕方ない……とメールに書いてきました。

正直、私から言えることは何もない……励ましてもそらぞらしく聞こえるだけだろうし、ではどうすればいいのか具体的な策を提案できるわけでもない。

 ろくな返事も書けないまま、それでも女性はその後もときどき、人生そのものを悔やむような、痛みを吐き出すような内容のメールを送ってきます。そのたびになんと言えばいいのか悩みながら、自分の無力と、向精神薬の罪深さを感じています。

 この薬は、その人が抱えてきたさまざまな「矛盾」を浮き彫りにしてしまうところがあるように感じます。もちろん誰しも「矛盾」は抱えていますが、薬が絡むことによって、ふり幅大きく、ドラスティックな形で、表現してしまうところがあるのではないでしょうか。

 医師が処方し、本人も必要だと感じたから飲んだ。しばらくはよかったが、少しずつ「ズレ」が生じて、副作用でまず体が反応し、そこで減らし始めると、体調がみるみる悪くなって、精神的にもやられていく。

 飲み始めるきっかけとなった根底にある問題(本人も無自覚だったかもしれない問題)が、ひょっこり顔を出してきて、その人に襲いかかるのです。

 そういう例をいくつか見てきました。

 でも、人間はずーっとずっと同じ状態でいるということはあり得ません。

 きっとどこかで自然治癒力が発揮されます。

 そういう力を持っていると信じます。

 同様の状況から抜け出せた人は、時間はかかっても、何らかのきっかけを得て、快方に向かいました。自分でも知らないうちに。