「自殺した28歳ボクサーの父が精神病院と闘う訳」
というタイトルで今年の11月に、東洋経済on-lineに記事が掲載されました。
https://toyokeizai.net/articles/-/389766
じつはこの話は、この記事がでる2年前に、「あるボクサーの死 精神医療を問う父の闘い」と題して、MBSの映像´20が制作したドキュメンタリーとして放送されています。
今回の記事では、ドキュメンタリーで描かれたよりもさらに「精神医療への厳しい問いかけ」がなされていると感じました。
しかし、一方で、精神医療の本当の問題には迫っていないのでは? という思いも抱きました。
つまり、診断の確かさという点です。
というのも、12月11日の東洋経済on-lineには「心を病む人を「薬漬け」にする精神医療への懐疑」というタイトルでこの記事の続編が書かれています。
このボクサーは「心を病んでいた」という前提……。
経過を記事から拾ってみます。
そもそもの発端は、こうでした。
「2015年12月、格上の元日本ランカーとの試合に挑むも、6ラウンドでTKO負けを喫した。再起をかけて練習に励む通隆さんに異変が起こったのは、翌年2月4日のことだった。夜、練習を終えて帰ると、「俺、記憶なくしてる?」と何度も父親に問いかけた。2月6日には頭痛を訴えて救急車で運ばれたが、脳の検査で異常は見つからなかった。その翌日、同じ動作を繰り返し、体や顔が硬直して動きが制御できないような状態になった。
翌朝、父親は通隆さんを車に乗せて民間の精神科病院に向かった。主治医は統合失調症の可能性があると告げ、患者の同意がなくても強制入院させられる医療保護入院となった。」
精神科病院がどういうところで、そこで統合失調症と診断された患者さんがどのような治療を受けることになるかは、この問題に少し詳しい人ならおおよその想像はつくと思います。
通隆さんも抗精神病薬の多剤併用を受け(セレネース筋注、ロナセン、リスパダール処方)、状態がさらに悪化。にもかかわらず予定より早く退院させられ、自宅療養中に「死にたい」と口にするようになりましたが、病院は「経営上の理由」から退院から3カ月たたないと再入院させられないとして入院を拒否。
そして、2016年4月、通隆さんは自宅マンションから飛び降りたのです。28歳になったばかりでした。精神科を受診して2カ月後のこと。
統合失調症という診断
通隆さんの当初の症状は、記事によると、次のようなものでした。
記憶をなくしたという訴え。頭痛。同じ動作を繰り返す。体や顔が硬直して動きが制御できないような状態。
一応脳の検査をしたようですが、異常なし。
で、精神科につれていって、統合失調症という診断になりました。
脳に器質的な異常が見つからなかったから、精神科へという流れは、ありがちなのかもしれません。しかし、通隆さんはボクサーです。ボクサーなら、殴打による脳へのダメージは容易に想像がつくはず。たった一度の検査で異常が見つからなかったから、精神科へ……。正直、ここがなにより悔やまれるのです。
しかし、精神科のことをよく知らなければ、家族は頼りたくなるのも、わかります。一応、精神「医療」ということになっているわけですから。
しかし、現実、精神科を受診すれば、ちょっと「普通」ではない言動をすれば、あっさり統合失調症の診断が下ります。残念ですが、精神科とはおおよそそういうところです。
そして、本当の意味で精神医療を問うとしたら、「ここ」なのです。
鑑別もできない精神科医は、何を見ても「統合失調症」に見えるのでしょう。そして、治療といえば薬物療法しかありません。誤診のうえにさらに誤処方。
統合失調症でなかった人が統合失調症としての治療を受けて、改善するはずもなく、経過は悪化の一途をたどります。しかし、すでに統合失調症として走り出した治療は、もうどうにも止まらないのです。
精神科にさえ行かなければ……。たぶん自殺はなかったのではないか……と思えて仕方ありません。
しかし、統合失調症と診断された患者の自死は、「統合失調症の人の自殺率は高い」という言葉に飲み込まれて、真相が究明されることはありません。
精神科医が統合失調症と言えば、もう統合失調症以外ありえない、という思考回路が一般にもあります。
通隆さんの父親も次のように言っています。
「「統合失調症の主症状は妄想や幻聴だという知識はありましたが、息子にはそんな症状は一切ありませんでした。症状について尋ねようとすると、『統合失調症はなんでもありだから、個々の症状はあまり意味がない』と質問を遮られました。患者の具体的な症状を軽視するような態度に違和感を持ちましたが、専門家の判断に任せるしかないと思いました」
精神科に行き、精神科医に関わってしまった時点で、こういう流れになるのです。
統合失調症はなんでもあり……。
まさにさまざまな原因不明の病気のごみ箱のような、医師にとってはまことに便利な病名です。
それにしても、こんなの「医療」ではありません。