最近続けて体験談を聞く機会があったので、今回は医療保護入院について考えてみたいと思います。

 医療保護入院とは?

 本人の同意がなくても、次の要件を満たしたとき、強制的に精神科病院に入院させることができる制度のことです。

・精神科病院の管理者が、

・家族等のうち、いずれかの者の同意があり、

・精神保健指定医1名の診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護の入院の必要があり、

・任意入院が行われる状態にないと判定された場合。(精神保健福祉法33条1項)。

 

 つまり、家族など1人が入院に同意し、1人の精神保健指定医の診断があれば、かなり簡単に医療保護入院は行えるということです。

 これは裏返せば、「悪用」しやすい制度です。家族間の問題を精神医療問題にすり替えて、「保護」という名目で、「排除」することを可能にします。

 精神科の特徴として、当事者=患者とさせられた人の訴えはほとんど聞き入れてもらえません(病気の症状とされます)。医療者は知ってか知らずか、「保護」を希望する家族(排除をしたい側)の言い分のみ鵜呑みにします。なんせ当事者は「精神障害者」ですから、話の信ぴょう性も定かではない。

 根底に家族の悪意があれば、家族が医師に伝える内容にも「悪意」がにじみます。悪く悪く話すでしょうし、なんでも「病的」な出来事として話すでしょう。

 そうして、本人にしてみれば普通の反応でも、家族の脚色された話によって、精神医学的には「双極性障害」、「躁病」、「統合失調症」と診断されてしまいます。

「病気」を否定すればするほど、「病識がない」、「興奮状態」「不穏」とカルテに記され、ますます病人らしくされてしまう。

 さらに、否応なく入院生活に入っていっても、いまだ「普通の感覚」を持ち続けている限り、「治療」と称されるものへの「抵抗」があり、そのことは「病識がない」患者として、締め付けがどんどんきつくなっていきます。

結果、拘束されることもあります。保護室に入れられることもあります。「普通の感覚」なら耐え難いですから、当然「抵抗」します。すると、ますます「病気」が「重い」ことになり、拘束の縛りがきつくなっていく……。

 

 これほど理不尽なことは、そうそうあるものではないと感じます。もし自分がその立場だったらと、想像しただけで背筋が寒くなります。

「自由の制約」という点では、刑事事件の逮捕・勾留等ありますが、その場合、現行犯以外は令状が必要です。つまり、裁判所の判断が介入する余地があります。しかし、医療保護入院の場合、たった2人の人間が「GO」サインを出せば、どこまでも突っ走れる。

さらに、事件なら、裁判が開かれ被告には弁護士もつきます。判決では刑期が決まりますが、医療保護入院には入院期間の定めもない。

 さらに入院後に家族が退院を希望しても、担当医がOKしなければ、退院できません。たった1人の医師の裁量が大きくものをいうのです。

 こんな恐ろしいことが、「保護」という名のもとで、「医療」としてまかり通っているのです。

 

 一方で、こうした「不当な」医療保護入院とは別の医療保護入院もあります。たとえば、自分で意思表示のできない子どもの入院は医療保護入院にならざるを得ないことが多い。

 また、実際、病気の悪化(というより、多くは薬による副作用、あるいは離脱症状ですが)によって、不穏になり、暴言暴力のため家族が入院を希望するというケースもあります。

 ただ、ここでも問題なのは、入院してからの「治療」がどのようなものになるか、です。

 

 例えば、ベンゾジアゼピン系薬物の長期服薬によって脱抑制を起こしたり、抗うつ薬の影響で攻撃性が出たりして、家族に暴力を振るったり、ご近所へ迷惑行為が続いたり……その背景には精神科の不適切な治療があるわけですが、世間は、いや世間だけでなく医療関係者も、そういう見方はしませんから、当然「迷惑な人」として家族が望めば医療保護入院の対象になります。

 入院をして、例えばベンゾ中毒ならベンゾを抜くことが本来的には「治療」になっていくのですが、精神科に医療保護入院となった場合、そのような道が開けることはほぼ期待できません。単に薬によって鎮静させられるだけ。あるいは縛り付けられてPTSDを負わされるだけです。

 

 医療保護入院の件数は年々増加しています。厚生労働省の数字では、2018年度の医療保護入院の届け出数は18万7683件。6万件前後で推移した1990年代前半と比べ、3倍超に膨らんでいるのです。

 これは背景に何があると考えればいいのでしょう。

 

 

 もう一点、第三者機関である「精神医療審査会」に対して、退院請求や処遇改善請求を行う制度もありますが、ほぼ「形骸化」しています。そのような制度は名目だけで、ほとんど機能していません。

多くの問題を抱えた精神科医の胸先三寸次第で患者の運命が決まる医療保護入院制度。治療より隔離収容をその本質的な機能とする日本の精神病院には、まことにふさわしい制度と言えるのかもしれません。

が、これは本気で何とかしなければいけない制度であると思います。