今年1月23日のエントリ

エビリファイ少量でアカシジア――薬剤過敏を知らない医師

 

 この女性のその他の症状を再びお伝えします。

 私が「ベンゾジアゼピンと老化現象」を書いたときに、それにからめて、女性からメールをいただきました。

 

「私はエビリファイを服用し、飲めなくなったあと、1週間程度リボトリールを処方され服用しました。その後、リボトリールも飲めなくなり、アカシジアを発症し、その緩和のために、ミルタザピンとソラナックスを服用しました。しばらくはアカシジアがひどく眠っているとき以外も横になり凌いでいました。

実家に帰り食事は頑張っていつも以上に必死で取りました。でもリボトリール断薬後はそれでもみるみる体重が減りました。たった1週間リボトリールを飲んだだけで。怖かったです。でもしばらくしてなんとか体重減少はとまりました。

ソラナックスや、ジメトックスでは、そんなことはありませんでした。」

 

また、「湿疹、皮膚の老化」は明らかにあります。

最初にジメトックスを服用した時は、湿疹がでました。肩や足などです。ジメトックスを断薬したら少しずつ治りました。

現在服用中のソラナックスかミルタザピンのせいかはわかりませんが、今も皮膚の劣化はひどいです。腕はがさがさし、顔も痒くなり、カサカサしててお化粧はもうできません。」

 

この方の場合、ミルタザピンは不眠を改善するために医師が処方に加えたものです。

「ミルタザピンは6月から飲み、今は半錠にしています。一錠でも半錠でもあまり差はないので、半錠にしてしばらく様子を見ながら減らしたいと思っています。半錠でなんとか眠れます。

最初半錠にした時は落ち込みが激しい気がして3/4に戻しましたが、今はまた減らす方向でトライしています。朝、起きた時、焦燥感が激しく、息が荒くなってしまい、歩き回り、毎朝辛いので、ソラナックス半錠飲んでなんとか鎮めています。これがどうしても改善しません。ベンゾの離脱作用のような気がします。」

 

「運動機能の低下もあります。今、だんだんうまく歩けなくなってきています。ソラナックスは、6月から1日2錠飲んでいて、9月くらいから少しずつ減らしてきて、今、また少し戻して半錠飲んでいます。説明は難しいですが、なんだか足がギクシャクしてうまく動きません。私は大量服用も長期服用もしていませんが、様々な症状が出てほんとに死にたくなります。

多くの方は長期服用により色々な症状がでるようですが、私は飲んだら即座にです。

今更ながら、最初に向精神薬を服用したことを悔やんでも悔やみきれません。」

 

少量の向精神薬で大きな副作用が出現する

 この女性のように、少量の向精神薬で大きな副作用が出現する、というケースがときどきあります。たった1錠で……という人もいました。

 そういう場合、医師はまったく患者の訴えを信じようとせず(薬の副作用とは認めず)、他の病気(不安が強いとか)にして、さらに薬を出してきます。

 前エントリでも書きましたが、この女性の場合もまさにそうでした。そして、あの薬がダメならこっちの薬といった具合にとっかえひっかえの処方が続き、薬をやめてみるという選択肢はありませんでした。

 しかし、薬の効き方には個人差があります。特に向精神薬の個人差は大きいです。

 個人差のできる理由の一つとして、肝臓における「薬物代謝酵素」=CYPの遺伝子多型が関係しているという研究が、現在多数発表されています。

向精神薬に関わる酵素は「CYP2D6」が多く(その他、CYP2C9及びCYP3A4も多いです。例えば、デパスはこの二つの酵素が関わっています)――CYP2D6で代謝される主な向精神薬は、以下の通りです。

 抗うつ薬:イミプラミン、パロキセチン、ミルタザピン、アミトリプチリン、ミアンセリン 他多数。

 抗精神病薬:ハロペリドール、アリピプラゾール、 チオリダジン、オランザピン、ペルフェナジン他。

 添付文書を見ると、その薬がどういったCYPで代謝されるか明記しているものもありますので、調べてみてください。

 

 CYP2D6は人種差がもっとも大きい代謝酵素と言われています。そして、その遺伝子多型の一つ、CYP2D6※10はIMの原因となる変異遺伝子で、日本人の38.6%がそうであるという研究があります。

 IMというのは「Intermediate metabolizer」の略で、酵素の50%程度の欠失を意味します。

その他、 PM (Poor metabolizer)は、酵素活性の欠損

EM (Extensive metabolizer)は、正常の代謝活性

UM (Ultrarapid metabolizer)は、超迅速代謝を意味します。

 

 つまり、日本人のおよそ40%(中国人はおよそ50%、ドイツ人はおよそ1.5%)が、遺伝子多型により、50%程度CYP2D6の欠失だとすると、この代謝酵素を使って分解される薬物を服用した場合、かなりの頻度で強い副作用が発現すると考えられます。

 上記でもわかる通り、人種的には、このCYP2D6 活性をアジア人種と白人種で比較すると,体重差を補正してもアジア人種の平均酵素活性は白人種より低いという研究もあります。

 

 この女性が飲んでいるミルタザピンは添付文書には、

「本剤は主として肝代謝酵素CYP1A2、CYP2D6及びCYP3A4により代謝される」

 とあります。

 さらに「エビリファイ」は上記の通り主としてCYP2D6とCYP3A4が関与しています。

 

 少量の薬で(しかも短期間の服用で)強い副作用が現れるケースは、以上のように薬物代謝酵素の遺伝子多型が大きく関与していると思われます。(その他、環境や年齢等も関係)。

 

 CYPの研究が進むにしたがって、個人の体質にあった「テーラーメイド医療」という言葉さえ出てきている昨今、一方で精神科の処方はあまりに画一的で、「作用」のみを重視していると言えます。

 そもそも副作用を認めない……この姿勢はあまりに「非科学的」です。

 精神科の場合、副作用さえ「精神症状」にできる(症状と副作用の症状が似ているということもありますが)こともあり、医師はその上に胡坐をかき、服用後の不調に対してさらなる投薬を続けるのは、さまざまな遺伝子多型が存在することがわかってきている現在では、あまりに乱暴。それは患者さんの体を単に痛めつけ、後遺症を残してしまう可能性もあるという認識を常に持っているべきだと感じます。