デパスについての体験談。

 40代女性。

10年ほど前に、抑うつから心療内科にかかり、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を飲んでいた。半年くらい飲んだところで、ある不可抗力から、ほぼ一気の断薬状態となった。

 しばらくすると、息苦しさや、焦燥感などの症状が出たが、それが離脱症状とはもちろんわからなかった。症状はつらかったが、同時に出てきた生理不順から、女性は婦人科を受診。そこでデパスが処方された。0.5㎎を日に3錠。

 最初はとてもよく効いた。5、6年は飲み続けたが、昨年の夏ごろから、足に力が入らない、不安、健忘、痩せるという症状が出てきた。と同時に、水中毒のようになり、日にかなりの量の水を飲むようになった。結局、低ナトリウム血症で意識を失い入院。

 そのときにデパスがやはりほぼ一気断薬のようなかたちになった。

 それから半年以上たつ現在、ほぼ寝たきりの状態。さまざまな離脱症状に襲われているという。

 アカシジアのような症状で落ち着かない、そわそわ、うろうろ。

 2時間くらいしか眠れない。

 歯がおかしい。歯肉炎のような状態。

 箸でモノがつかめない。

 顔がひきつる。

 足に力が入らない。

 筋肉が落ちている。

 舌が回らない。

 右半分がおかしい。肺、喉が機能していない感じで、誤嚥を起こしそう。

 内臓が動く感じ。

 消化不良。

 口内炎。

 体が震える感じ。

 

 ご主人はこうした症状にまったく理解がない。つらさを訴えても、聞く耳を持ってくれず、言えば怒鳴られ、否定される。それを見ている子どもたちも同様の反応。

 料理もろくにできず、掃除もできず、ただ横になっているばかりだが、家族の理解もなく、この先いったいどうすればいいのか……。

 

 私はそんな体験談を聞きながら、こうしたケースを生まないためにはどうすればいいのかと考えていた。多くの医師が、患者が不調を訴えたとき、飲んでいる(飲んでいた)薬にほとんど関心を示さない。まず、それが問題だろうと思う。

患者の主訴をほぼすべて「病気の症状」としかとらえず、それに対して投薬をする。しかし、それで解決するどころか問題を複雑にしてしまうことがある、ということを知らないのだ。

医師がせめて服薬歴を確認してくれていれば…。離脱症状というものを知っていれば…。

しかし、デパスが向精神薬に指定されたのは2016年。この女性が飲み始めた後のことだ。

 

東洋経済のオンライン記事で「デパス」についての特集が何本か組まれているので、興味のある方は読んでみてください。

https://toyokeizai.net/articles/-/324565

 

その中で、松本俊彦医師(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長)がインタビューに答えているので、抜粋して伝えます。

 

松本俊彦医師との一問一答

──このデパス(エチゾラム)問題は具体的にどのように対処していけばよいのでしょう?

私は一般内科の医師の研修会などでデパス(エチゾラム)の危険性について話すときに「新規処方はやめましょう」と言いますが、「デパス(エチゾラム)をすでに飲んでる人に処方するな」とは言わなくなっています。これまで診察が5分で終わっていた患者さんが、薬をやめる話をすると1時間も長引いて、結局、薬を出してくれる優しいお医者さんのところに行ってしまう。何も問題が解決しないのです。だから新規に処方しないことしかないかなと思うことがあります。

──どの程度止めづらいものなのでしょう?

薬物依存の治療の中で覚せい剤の治療はほとんど入院せずに外来診療できます。しかし、デパス(エチゾラム)のようなベンゾジアゼピン受容体作動薬依存の人は1~2カ月間の入院が必要になります。根気よく薬の量を少しずつ減らし、退院後も外来での治療を継続していきます。

高齢でデパス(エチゾラム)の常用量依存が疑われる人の場合ならば、何か大きな病気をして入院したり手術を受けたりのときはチャンスなんですよ。「ちょっといろいろあるし、麻酔もかけるからお薬整理しようね」と話してデパス(エチゾラム)を整理していくのです。

患者全員が精神科の認知行動療法を必要としているわけではないのですが、患者さんはちゃんとわかってほしい、認められたいと思っていて、そういう場があれば、薬は減らせると私は思っているのです。ただ、そうなると診察時間が長くなります。たくさんの人が関わっていろんな形で多職種がアプローチすると本当に薬は減りますよ。

 

──私たち患者になりうる立場の人たちも薬への向き合い方が問われるのでしょうか?

私は新規の患者さんにデパス(エチゾラム)を処方することはありません。その理由はデパス(エチゾラム)がいい薬すぎるから。切れ味がよくて、患者さんの満足度が高い薬なのです。しかし、薬でこんなに楽になる体験をするのは、罪深い気がするのです。薬はいい部分もあるけど悪い部分もたくさんあります。

だから魔法のような薬で夢を見させてしまって、患者さんが薬に幻想を持つようにならないほうが、「しょせん薬はこんなもんですよ」という諦めを持ってもらったほうがいい気がします。同時に私たちは治療を短期的な成果だけで考えてはいけないのだろうと思います。薬を出してこの人はどのようにこの薬から卒業していくんだろうかというイメージを持って薬を出さなければいけない時代になってきていると思います。

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この記事からわかるのは、離脱症状対処法として、結局、入院する必要があるということ(どこへ? 松本医師のいる病院で対応してくれるのか?)

また、「ちゃんとわかってくれる場」があれば、薬は減らせる(自助会でもよいのでしょうね)。

それくらいです。

松本医師は新規の処方はしないとおっしゃっていますが、彼は自分の父親にデパスを飲ませていると、本人の口から聞きました。

高齢になって、生活の質が上がるのであれば、老い先短いことだし、依存の問題に直面せずにすむと考えているからでしょうか?

ともかく、覚せい剤より抜くのがたいへんなベンゾジアゼピン作動薬(デパス含)。そんな薬がなぜ、これまでこうも野放しになっていたのか? と同時に、すでに依存症になっている人の存在を考えると、規制そのものさえ、困難を伴うことが目に見えています。

711(世界ベンゾ注意喚起の日)の課題かもしれません。