2014年に出版された拙著『精神医療の現実――処方薬依存からの再生の物語』ですが、少しずつ内容を公開していこうと思います。

 

 まず、双極性障害について。(本書50ページ)から引用。

 

 うつ病治療を続けたあとに現れる双極性障害という病――うつ病の治療を10年ほど続け、ここにきて「双極性障害」(多くはⅡ型)と診断が変わったという人はいじつに多い。このあたりの事情について『心の病の「流行」と精神科治療薬の真実』のなかで、著者のロバート・ウィタカーは次のように書いている。

「(イェール大学医学部の研究者らは)1997~2001年にうつ病または不安障害と診断された患者87290人の記録を検討し……長期的にみると、最初に単極性うつ病と診断された患者の20~40%が今日では、最終的に双極性障害に転換している。それどころか、全米うつ病・躁うつ病協会が実施した近年の調査によると、双極性と診断された患者の60%が、最初は大うつ病だったが抗うつ薬の使用後に双極性に変わったと回答した。」

 

 うつ病として抗うつ薬治療を受けた患者の、なんと60%もの人がのちに双極性障害と診断が変わっているというのだ。これの意味するところは、最初のうつ病という診断が誤診で、そもそもが双極性障害患者だったということだろうか。いや、そうではないだろう。抗うつ薬による治療の結果としての「うつ病→双極性障害」への移行であるとウィタカーはいっているのだ。

 (略)

 2013年3月には、日本うつ病学会のなかに「双極性障害委員会」というのが新たにつくられ、ホームページ上で双極性障害の啓蒙が盛んに行なわれている。また、治療ガイドラインも作成されて、治療薬として気分安定薬(リーマス、ラミクラール、デパケン、テグレトール)や非定型抗精神病薬(ジプレキサ、エビリファイ、セロクエル(適応外)、リスパダール(適応外))などが挙げられ、薬物治療が第一選択になっている。

(略)

 最近の安易な双極性障害への診断見直しは、製薬会社のマーケティング戦略に医師が安易に乗っかった結果と思われる。製薬会社の戦略というのは、つまりこういうことだ。

 たとえば、ジプレキサという薬はもともと統合失調症の薬である。これが2012年に世界各地で特許切れを迎え、製造販売元のイーライリリーはかなりの減収が見込まれた。そこでイーライリリーが行ったのは、ジプレキサを双極性障害の躁にも、うつにも効く薬として新たに申請することだった。新たに申請が通った部分については、特許は継続するというカラクリだ。

 それにしてもうつにも躁にも効果がある薬というのは、何なのだろう。さらに、製薬会社の思惑通りに申請が通ってしまうというのは、どういうことなのだろう。(後略)」

 

 双極性障害の流行は今でも続いている。

 最初抗うつ薬を処方して、副作用である軽躁状態を双極性障害Ⅱ型と診断し、気分安定薬や抗精神病薬の処方へと移行していく。

 厳に警戒すべきは、こういった「はやりの診断名」である。

『〈正常〉を救え』の著者、アレン・フランシスも本の中でこう書いている。

「はやりの診断を警戒せよ

 誰もがにわかに何らかの診断を受けたり、話題にしたりしているように思えたら(それがADHDであれ、双極性障害であれ、PTSDであれ、自閉症であれ)、度を越えた診断が行われていると判断し、流れに身を任せてはならない。」

 

 そうした「はやりの診断」の背後には決まって製薬企業の動きがある。

 20年前の「うつ病」しかり、現代の「双極性障害」しかり、「ADHD」しかりなのだ。

 それほど一つの「精神疾患」が突然、急増するわけがない、考えてみたら、ごく普通のこと。